[改定速報] 26年度改定に向けた意見書を中医協まとめる、改定率は両論併記

[中央社会保険医療協議会 総会(第264回 12/11)《厚生労働省》]

平成26年度 診療報酬改定 完全速報 - 2013年 12月 11日

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 厚生労働省は12月11日に、中医協総会を開催した。
 この日は、平成26年度診療報酬改定に向けた意見をまとめ厚生労働大臣に提出したほか、改定項目として「褥瘡対策」「ICU等における重症度・看護必要度」「明細書の無料発行」などについて議論した。
 
 
◆26年度改定に向けて中医協が意見書提出、改定率に関しては両論併記
 
 診療報酬改定の論議は、現在、(1)基本方針を社会保障審議会で策定する(2)改定率を内閣で決定する(3)改定内容を基本方針・改定率に沿って中医協で検討する―という3層構造で進められる。
 もっとも改定率等は改定内容にも大きな影響を及ぼすため、中医協が改定率に関する意見を内閣に提出すること自体は可能だ。
 前々回(平成22年度)改定では、改定率をめぐって支払側(1号側)と診療側(2号側)の意見対立が激しく意見取りまとめがかなわなかった。前回(24年度)改定では改定率に関する記述こそ両論併記(支払側はマイナス改定、診療側はプラス改定)であったものの、「中医協の存在意義を示す必要がある」との点で両側の見解が一致し、当時の小宮山厚生労働大臣に意見書を提出している。
 
 今回改定でも、改定率をめぐる両側の見解は正反対であるが、「意見書を提出すべき」という点では両側の意見は一致している。
 
 この日は、公益代表委員から意見書案が提示され、これに基づいた議論を行った(p88〜p89参照)。
 意見書案では、まず「支払側は、賃金が伸び悩み、物価が上昇する中で国民経済は厳しいが、その一方で医療機関経営は安定しており、『薬価引下げ分を診療報酬本体の引上げに充当するやり方を取止め、診療報酬全体でマイナス改定とすべき』との意見であった」ことを紹介。
 一方で、「診療側は、直近2回の改定はプラスであったが、それ以前の厳しい医療費抑制の下で直面した医療崩壊の危機からは脱することができておらず『消費税率引上げ対応分を除いた全体(ネット)プラス改定は必須』との見解である」ことを説明している。
 
 このように改定率については両論を併記するものの、両側の総意として「中医協こそが、医療制度全体を見渡す幅広い観点から、膨大な時間を費やしてデータに基づく真摯な議論を積重ね診療報酬改定に取組んでおり、『責任をもって改定の具体的検討を行う場』である」ことを強調。財務省等による、具体的な改定内容にまで踏込んだ意見を暗に牽制している。
 そのうえで、厚生労働大臣に対し「改定率決定にあたり適切な対応をとる」よう求めている。
 
 委員間では、若干のやりとりがあったものの意見書は原案どおり了承され、森田会長(学習院大法学部教授)から厚生労働大臣(代理受領:木倉保険局長)に提出された(p90〜p91参照)。
 
 
◆多職種による在宅褥瘡対策チームを評価する点数を新設
 
 では、改定項目に関する論議に目を移そう。
 この日のテーマは、「褥瘡対策」「ICU等における重症度・看護必要度」「明細書の無料発行」「技術的事項(喀痰吸引指示書の取扱いなど)」である。
 
 まず、「褥瘡対策」について見てみよう。
 中医協の下部組織として、入院医療改革について集中討議を行ってきた『入院医療等の調査・評価分科会』では、褥瘡対策について「急性期病棟を含め、医療機関における褥瘡の発生状況等の基礎データをまず収集し、これをベースに有効な対策に結付けていくことを検討する」よう提言をまとめている。
 これを受け、厚労省当局は次のような提案を行っている(p5〜p21参照)。
(1)褥瘡対策を推進していくために、特定日の褥瘡の患者数、院内発生患者数等の報告を求める(たとえば施設基準における『毎年7月1日現在の状況』のように、年に1回報告するイメージ)
(2)DPCデータを提出している病院については、データ提出の仕組みを活用し、入退院時の褥瘡の状況について提出を求める
(3)訪問看護利用者についても褥瘡の状態のリスク評価について明確に規定する(全利用者について評価を行う)
(4)訪問看護ステーションについても褥瘡の患者数、過去1ヵ月の褥瘡発生患者数等の報告を求める(1年のうち特定の1ヵ月間における褥瘡患者数を報告するイメージ)
(5)在宅ですでに褥瘡が発生している患者については、チーム(患者・介護者を中心とした主治医、訪問看護師、管理栄養士を必須メンバーとする多職種チーム)による褥瘡ケアを評価する点数を新設する(p20参照)
 
 これらの項目には、特段の異論・反論は出ておらず、了承されたと考えてよいであろう。
 
 
◆ICU等の重症度・看護必要度基準、一般病棟に合わせた見直しを
 
 「ICU等における重症度・看護必要度」では、ICU等においても、今回改定で論議されている「一般病棟における重症度・看護必要度判定基準の見直し」にあわせた評価方法の導入などを行ってはどうかという提案が行われている。具体的な内容は次の2点。
(1)【ハイケアユニット入院医療管理料】における重症度・看護必要度の評価方法を、現行の「A項目(創傷処置や特殊な治療などの医療処置)3点以上またはB項目(ADL)7点以上」から「A項目3点以上かつB項目7点以上」(この要件を満たす患者が8割以上)とし、重症度・看護必要度の考え方そのものについて、一般病棟と同様の見直し(時間尿測定および血圧測定の削除など)を行う(p23〜p29参照)
(2)【特定集中治療室管理料】における重症度・看護必要度の評価方法を、(1)と同様に「A項目3点以上かつB項目3点以上」(この要件を満たす患者が9割以上)とする(p30〜p32参照)
 
 この提案について厚労省保険局の宇都宮医療課長は、「現在、B項目(ADL)7点以上のみを満たして『重症』と判断されている患者が少なくない。7対1一般病棟ですら『A項目2点以上かつB項目3点以上』という設定であり、より重篤な患者の入院を想定しているハイケアユニット(HUC)や特定集中治療室(ICU)では、『A項目3点以上かつB項目7点以上』などと設定すべきであろう」との考え方を説明している。
 
 もっとも、こうした見直しを行った場合、ハイケアユニットでは要件(重症度・看護必要度の高い患者割合が8割以上)を満たせる医療機関は42.1%、「3ヵ月を超えず1割以内の変動範囲内にある医療機関」を含めても57.9%にとどまってしまう(現在の要件では100%が要件を満たす)(p26参照)(p28参照)。
 ちなみに要件を「重症患者が6割以上」とすると、要件を満たせる医療機関は68.4%に上昇する(p28参照)。
 
 特定集中治療室でも、新基準で要件(重症度・看護必要度の高い患者割合が9割以上)を満たせる医療機関は25.6%、「3ヵ月を超えず1割以内の変動範囲内にある医療機関」を含めても39.5%に減少してしまう(現在は、1割以内の変動を含めて95.3%が要件を満たす)(p32参照)。
 こちらも要件を「重症患者が7割以上」とすると、要件を満たせる医療機関は53.5%に上昇する。
 
 このように、見直しによって算定できる医療機関数が大きく減少する可能性が高いため、厚労省当局は「一定の経過措置」や「基準の緩和」などを検討していく構えだ。厚労省保険局医療課の担当者は、「経過措置と基準緩和はセットで行うことになるかもしれない」との見通しを示している。
 
 この点について診療側の鈴木委員(日医常任理事)は、「経過措置は重要だが、そもそも見直し後の要件が厳しすぎるのではないか」と述べ、見直しは慎重に行うべきと主張。
 一方、支払側の矢内委員(全国健康保険協会東京支部長)は「HCUやICUに期待される機能・役割がある。その機能が患者の状態によって十分に発揮されていないのであれば問題である。A項目とB項目を組合わせた適切な評価を行ってほしい」と述べ、厚労省提案に賛同している。
 
 
◆400床未満の病院でも、経過期間設けて「例外なき明細書無料発行」義務化
 
 明細書の発行については、「患者も自分の受けた医療内容を十分に知り、かつ公的な保険制度からどれだけの給付が行われているかを把握すべき」との支払側の意向を踏まえて平成20年度から順次拡大されてきている(p39〜p40参照)。
 現在は、400床以上の病院では「原則、無料で明細書を発行する」こととされ、26年4月以降は、例外なく「無料での明細書発行」が義務付けられることになる(p40参照)。
 これに伴い厚労省当局は、「400床未満の病院でも、一定の経過措置を設けて、明細書の無料発行を義務付けてはどうか」との提案を行っている(p37参照)。
 つまり、400床未満の病院でも、一定期間後(たとえば28年4月から)は例外なく明細書の無料発行をしなければならなくなるということだ。
 
 
 なお、現在(26年3月まで)は、400床以上の病院でも(1)明細書発行機能のないレセプトコンピュータを使用している(2)自動入金機の改修が必要である―といった『正当な理由』がある場合には、例外的に「患者の求めに応じた、有料での明細書発行」が認められている(p40〜p41参照)。
 この点、厚労省当局は「明細書発行機能のないレセコンを使用する『正当な理由』に基づいて無料発行していない医療機関について、今後、レセコン等の改修時期を届出てもらう」こととしてはどうかとも提案している(p37参照)。対象となるのは、診療所、400床未満の病院(ただし上記の経過措置期間中)になると考えられる(p46参照)。
 
 厚労省の宇都宮医療課長はこの提案の意図について、「(明細書無料発行は医療機関の義務であることの)自覚を促すとともに、無料発行体制整備がいつになったら完了するのかなどを厚労省としても把握しておきたい」と説明している。
 
 
 ところで、上記の『正当な理由』のある場合には有料での明細書発行が可能だ。厚労省の調査によれば、平均額は464円だが、最高で5250円を患者から徴収している医療機関もあることがわかった(p44参照)。
 これを受け厚労省当局は、「1000円を超える料金を徴収する場合は、実費相当であることが患者にも分かるよう、料金設定の根拠等を提示する」よう求める構えだ(p37参照)。院内掲示が義務化されることになろう。
 
 
 なお、支払側の花井圭子委員(連合総合政策局長)や、花井十伍委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は「現在、明細書無料発行の対象となっていない、生活保護における医療扶助などのケース(p40参照)でも、患者が『自分にどれだけの医療給付が行われているのか』を知ってもらう意味で、明細書発行を行うべき」と要望しているが、現場の業務フローやレセコンの対応などに課題もあり、検討が継続される模様だ。
 
 
◆在宅自己腹膜灌流指導管理料算定患者、他医療機関では【人工腎臓】算定不可
 
 いわゆる「技術的事項」については、次のような見直し案が厚労省当局から示された。不適切な診療報酬請求の是正策が目立つ。
(1)喀痰吸引等指示書(介護職員等喀痰吸引等指示書)を、登録喀痰吸引等事業者である「特別支援学校等の学校」に交付した場合、【介護職員等喀痰吸引等指示料】を算定できるようにする(p49〜p55参照)
 
(2)遠隔モニタリングにおける【心臓ペースメーカー指導管理料】において、遠隔モニタリングによる非来院時の指導管理に対する評価を含めて点数設定されていることを明確にする(現在は4ヵ月に1回とされている対面診療の頻度の見直し(間隔の延長)や、特定疾患療養管理料・在宅療養指導管理料等を遠隔診療で認めるか否かについては、有効性・安全性に関するエビデンスの集積を待って対応する)(p57〜p63参照)
 
(3)胃瘻の造設前の嚥下機能評価の実施や、造設後の連携施設への情報提供を推進するための評価を行う(加算設定のイメージ)(p65〜p71参照)
 
(4)一旦「経口摂取不可」とされた患者について十分な嚥下機能訓練等を行い、高い割合(成績のよい医療機関で6割程度)で経口摂取可能な状態に回復させることができる医療機関において、『胃瘻閉鎖術』や『摂食機能療法』の評価を引上げる(p72〜p76参照)
 
(5)【画像診断管理加算】(自施設における画像診断にかかる専門的な体制を評価、遠隔画像診断でも同様)の算定について、画像の読影等を行う外部の機関を利用した場合は、評価の対象としない(指導監査等で対応することになろう)(p77〜p84参照)
 
(6)【在宅自己腹膜灌流指導管理料】を請求している患者については、他の医療機関が人工透析を行っても、【人工腎臓】を算定できないことを明確にする(p85〜p87参照)

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