[改定速報] がん拠点病院空白地域に設置する『地域がん診療病院』等を評価
[中央社会保険医療協議会 総会(第257回 11/15)《厚生労働省》]
平成26年度 診療報酬改定 完全速報 - 2013年 11月 15日
厚生労働省は11月15日に、中医協総会を開催した。
この日は、(1)がん対策(2)在宅自己注射(3)たばこ対策―の3点について議論を行った。
◆がん拠点病院のない地域に設置される『地域がん診療病院』等、診療報酬でも評価
(1)のがん対策については、(i)がん診療体制(ii)小児がん診療体制(iii)がん患者に対する管理指導(iv)外来化学療法―について厚労省当局から論点が示されている。
(i)がん診療体制(p23〜p48参照)
全国のどこに住んでいても、優れたがん医療を提供する(均てん化)ために「がん診療連携拠点病院」の整備が進められているが、へき地等では拠点病院の要件を満たす病院が存在しないことから、107の2次医療圏が「拠点病院の空白地帯」となっている(p30参照)。
そこで厚労省は、「空白地帯においては、拠点病院の要件を一部緩やかにした『地域がん診療病院』を近隣の拠点病院とセットで指定し、がん診療体制の底上げを図る」方針だ(p37参照)(p39参照)。
厚労省当局は、この『地域がん診療病院』についても診療報酬上の評価をしてはどうかと提案している(p20参照)。
ところで拠点病院については「診療実績等にバラつきがある」点が指摘されており(p31〜p33参照)、現在、指定要件の見直し(診療体制の強化や、診療実績の基準設定など)が進められている。厳しい指定要件を設けることで、拠点病院の診療水準を引上げたい考えだ(p38参照)。
すると、新要件を満たせないケースが生じることになるが、この点について厚労省健康局の椎葉がん対策・健康増進課長は「拠点病院の要件を満たせない場合には、『地域がん診療病院』になっていただくこともありえよう」と説明している。
厚労省の提案に対して、花井圭子委員(連合政策局長)らは「緩やかな要件の病院をつくるよりも、たとえば医政局や健康局の補助金を活用した『てこ入れ』を検討すべきではないか」との指摘をしている。
今見た『地域がん診療病院』はがん診療の均てん化を目指すものだが、厚労省は「地域のがん診療体制の強化」を図るための方策も進めようとしている。これが『特定領域がん診療病院』だ。
がん専門病院などの中には、特定分野のがん種(たとえば乳がんや大腸がん)について大学病院をも上回る診療能力をもつところもある。
これらを『特定領域がん診療病院』として指定し、拠点病院をサポートすることを厚労省は狙っている(p37参照)(p40参照)。
この点について椎葉がん対策・健康増進課長は、「DPCデータをもとにがん診療実績の高い、拠点病院以外の病院を探ると、脳腫瘍で6病院、大腸がんで2病院など20病院ほどをピックアップできる」とコメントしている。
厚労省当局は、この『特定領域がん診療病院』についても診療報酬上の評価をしてはどうかと提案している(p20参照)。
この点については、委員から異論や疑問が出されている。診療側の委員は「大学病院を上回る診療能力を持つような病院は、経営的にも潤っているのではないか。あえて診療報酬で評価すべきだろうか」との疑問を表明。
これには、厚労省保険局の宇都宮医療課長が「診療報酬の評価は、大きく『こうあってほしいという方向に導く』ケースと、『すでに実績ある部分を評価する』ケースがある。今回提案している『特定領域がん診療病院』の評価は後者である。すぐれた診療能力や医療の質を維持するには、相応のコストがかかる。そこは診療報酬で正当に評価すべきではないか」と説明している。
(ii)小児がん診療体制(p44〜p50参照)
小児がんについては、成人のがんに比べて患者数が少ないために研究が進んでいないという課題があった。
そこで厚労省は、一定の要件を満たす病院を『小児がん拠点病院』に指定し、そこに患者(症例)を集中させることで治療・研究を飛躍的に向上させようという取組みを開始している(p45参照)。
現在、北大病院や京大医学部附属病院、兵庫県立こども病院など15の施設が指定されている(p46参照)。
なお要件については、がん診療体制や実績のみならず、患者が小児であることを踏まえ「両親等が長期間宿泊できる設備のあること」なども加味されている(p47参照)。
厚労省当局は、この『小児がん拠点病院』についても診療報酬上の評価をしてはどうかと提案している(p48参照)。
(iii)がん患者に対する指導管理(p51〜p65参照)
がんは「部位別の疾患ではなく、全身疾患である」との考え方が主流だ。このため、抗がん剤等を用いた長期間の治療が行われるのが一般的である。
つまり患者は、告知から一応の治療終了まで、長期間の「不安」とも闘わなければならず、看護師やコ・メディカルによる幅広いサポートが重要になっている。
また医学・薬学の進展により新たな抗がん剤が開発され、その使用方法や報酬算定がきわめて複雑になり、薬剤師等による管理の重要性も増してきている。
こうした状況に鑑み、厚労省当局は「がん患者に対する指導管理」について次のような論点を提示している(p50参照)。
●医師による診断結果や治療方法の説明のあと、患者の状態に応じ、患者の同意を得た上で、医師または、医師の指示のもと医師と連携して、がん医療について一定の経験と専門的な知識を持つ看護師や薬剤師が、継続して指導管理を行うことについて評価してはどうか
この点について厚労省の宇都宮医療課長は、「患者の抱える広範な悩み・負担について『話を聞く』ことが重要であろう。そこに専門的な知識によるサポートを含めた総合的な指導管理を診療報酬で評価してはどうかと考えている」と説明している。
(iv)外来化学療法(p78〜p90参照)
新たな抗がん剤の開発や治療環境の改善、患者ニーズの多様化、さらには平均在院日数短縮の要請などにより、化学療法(抗がん剤治療)を外来で行うケースが増えてきている。
このため数次の診療報酬改定において【外来化学療法加算】の評価が充実されてきた。
一方、評価の充実にあわせて要件や算定内容が複雑化しており、医療現場には混乱もあるという。
そこで厚労省当局は、次のような【外来化学療法加算】の見直しを提案している(p79参照)。
●【外来化学療法加算】を設定した本来の趣旨を明確にするため、皮内、皮下および筋肉注射を除いた点滴等による薬剤投与を重点的に評価する対象とする
●加算の対象となる薬剤をより明確に規定する
●【在宅自己注射指導管理料】を算定する場合、外来化学療法加算を算定できない取扱いとする
加算の対象薬剤については、以下のような具体案も示している(p87参照)。
(a)抗悪性腫瘍剤である『シクロホスファミド水和物』『メトトレキサート』『イリノテカン塩酸塩水和物』については、「外来化学療法加算Aに準じた評価」とする
(b)関節リウマチ患者等に対する分子標的薬のうち『インフリキシマブ』については、「外来化学療法加算Bに準じた評価」とする
(c)関節リウマチ患者等に対する分子標的薬のうち『エタネルセプト』『アダリムマブ』『トシリズマブ』『アバタセプト』については、「在宅自己注射管理料で評価する」
◆在宅自己注射管理料、期間に応じた減額を厚労省が提案
(2)の在宅自己注射について厚労省の宇都宮医療課長は、対象薬剤や投与経路の増加が著しいことから「一度整理する必要がある」との考えをかねてから表明していた。
この日は、次のような考え方が提示されている(p91〜p99参照)(p92参照)。
(i)【在宅自己注射指導管理料】については、在宅自己注射の頻度に応じた評価体系に改めるとともに、導入前に頻回の指導を行う必要があるなど、当該管理料に求められる指導の性質等を明確にした上で、「薬事法上、15日間以上の間隔をあけて注射を行う注射等については対象外」とする
(ii)在宅自己注射の導入後、一定期間が経過したあとの評価を適正化(引下げ)する
(iii)在宅自己注射の導入前に、入院または週2回・3回以上の外来、往診もしくは訪問診療で医師が十分な教育を行うこと(現在の要件)について、実施状況を文書等で確認する
(iv)新薬については投与期間が14日間と制限されていることを踏まえ、概ね14日間の間隔をあけて注射を行う医薬品については、投与期間の制限がなくなるまでの間、在宅自己注射指導管理料の算定対象から除外する
このうち(ii)について診療側の安達委員(京都府医師会副会長)は、「たとえば糖尿病患者はインスリンの在宅自己注射を行うことが多いが、高齢の患者が増加している。高齢患者では合併症等もあって長期間の管理が必要になり、期間が経過するほど指導管理を充実させなければならないケースも少なくない。こうした場合の評価を適正に行う必要がある」と指摘している。
また(3)のたばこ対策については、厚労省当局から次のような論点が示されている(p100〜p112参照)(p101参照)。
●若年層(20代)に対する算定要件(BI200以上)についてどう考えるか
●入院中であっても、指導管理を行うことを前提に、禁煙補助剤の処方を認めることについてどう考えるか
診療報酬上は、ニコチン依存症患者の治療についてB001-3-2【ニコチン依存症管理料】が設定されているが、「ニコチン依存症」の判断基準であるBI(ブリンクマン指数)は「1日に吸うたばこの本数×喫煙年数」で計算されるため、若者は「依存症」と判断されにくい。これをどう考えるべきかという問題である。