[改定速報] 真に医療の質向上に貢献するための医薬品開発に2900億円を投資
[中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第93回 11/6)《厚生労働省》]
平成26年度 診療報酬改定 完全速報 - 2013年 11月 06日
厚生労働省は11月6日に、中医協の「薬価専門部会」を開催した。
この日は、下部組織である薬価算定組織からの提案について議論したほか、専門委員から「新薬等の研究開発状況」について報告を受けた。
◆薬価算定組織が「世界に先駆けて日本で薬事承認」されたことの評価要望
薬価算定組織は7月31日の薬価専門部会に、平成26年度の薬価制度見直しに向けて(1)外国平均価格調整ルールの見直し(2)原価計算方式におけるイノベーション評価の充実(3)世界に先駆けて我が国で薬事承認を取得した場合の評価新設―を提案している(p4〜p5参照)。
この日は、主に(2)と(3)について検討を行った。
(2)は、原価計算方式においてイノベーション評価を充実するために「営業利益率の勘案度合いを引上げるべき」との提案だ(p6〜p11参照)。
原価計算方式は、類似薬がない場合に、原材料費、製造経費等を積上げて新薬の薬価を設定する仕組みだ。
現在、営業利益率は平均して18.3%と設定されるが、新薬の有用性等を評価するためにプラス50%〜マイナス50%の幅が設けられている。つまり、有用性のない新薬では営業利益率がマイナス50%と評価され9.15%になるが、きわめて有用性の高い新薬では営業利益率がプラス50%と評価され27.45%となる(p7参照)。
薬価算定組織では、これを「マイナス50%〜プラス100%」に設定し、きわめて有用性の高い新薬の評価を充実すべきと提案している。この仕組みの下では、きわめて有用性の高い新薬の場合、営業利益率を最大で36.6%とすることが可能になる(p7参照)。
厚労省の試算では、営業利益率が平均の18.3%と評価される新薬が100円となった場合に、マイナス50%評価(有用性低い)では90.0円に、プラス50%(現在の最高評価)では112.7円に、プラス100%(提案による最高評価)では128.9円になるとされている(p9参照)。
ただし、平成22度〜25年5月までに原価計算方式で薬価収載された医薬品のうち、営業利益率がもっとも高く評価されたのは「40%」である(p11参照)。
厚労省保険局医療課の近澤薬剤管理官は「イノベーション評価充実を準備することで、将来的に優れた医薬品が出現することが期待できる(土壌を整備しておく)」旨の説明を行っている。
(3)の世界に先駆けて薬事承認を受けた場合の加算とは、現在の有用性加算(II)(加算率は5〜30%)の加算要件の1つとして「世界に先駆けて日本で薬事承認を取得したこと」を加えてはどうかという提案だ(p12〜p16参照)。
現在、有用性加算(II)の要件は、(i)臨床上有用な新規の作用機序がある(ii)類似薬に比較して高い有効性・安全性がある(iii)疾病・負傷の治療方法の改善(iv)製剤工夫による高い医療上の有用性がある―という4項目のうち、「いずれかを満たすこと」とされている。ここに5番目の要件を設定するとのイメージだ(p15参照)。
なお、このほかに「原価計算方式において、原料からすべて国内で製造するケースについては、外国平均価格調整の対象から除外してはどうか」との提案も行われている(p17〜p19参照)。
◆中医協委員からは「世界初ではなく、画期性を評価すべき」との批判相次ぐ
こうした提案に対し、中医協委員からは批判が相次いだ。
診療側の安達委員(京都府医師会副会長)は、「いずれの提案も合理的な内容とは考えられない。たとえば(3)では『世界に先駆けて承認を受けた』場合の評価とあるが、患者には何らメリットがない。それどころか加算により負担は増加する。『すぐれた効果』について評価すべきである」と述べ、すべての提案を否定した。
また、支払側の白川委員(健保連専務理事)も「提案の趣旨が理解できない。(3)の『世界に先駆けて承認を受けた』場合の加算などは、これがあるとメーカーの研究開発は進むのだろうか。画期性などに着目するのであれば理解できるが、単に『世界初』を評価してほしいというところは理解できない」とし、安達委員と同じくすべての提案を否定している。
これに対し加茂谷(塩野義製薬株式会社常務執行役員)は、「たとえば(3)の加算は、新規の作用機序を持つことが前提となっており、単に『世界初』を評価すべきという提案内容ではない。新規作用機序の解明にはたいへんな努力がいる。そこを重んじて議論してほしい」と要望。
また、厚労省の近澤薬剤管理官は「薬効分類の中で『世界初』をイメージしている」と説明している。
なお、この問題に関連し安達委員は「有用性加算(II)は5〜30%の上乗せ区分があるが、どういう場合であれば何%になるのかが定量的に示されていない。この基準を明確にすることが先ではないか」と指摘している。
この点、厚労省の近澤薬剤管理官は「現在、研究班を設けて有用性等の加算区分の明確化に向けた検討を進めようと考えている。検討結果は薬価算定組織を経て、中医協にも報告する予定だ」と答弁している。
◆メーカー試算によれば医療の質向上に貢献する医薬品開発に2900億円投入
この日は、加茂谷専門委員と土屋専門委員(エーザイ株式会社代表執行役専務)から新薬等の開発状況が報告されている(p20〜p31参照)。
これは、新薬創出等加算を受けている83の新薬メーカーを対象に、(1)医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議や関係学会からの開発要望を受けている新薬(2)真に医療の質の向上に貢献する医薬品(新薬)―の研究開発にどの程度の費用を投入しているのかを調べたもの。
調査結果を見ると、(1)の開発要望品目は206品目あり、メーカー全体で387億9000万円が研究開発費に充てられている。
また、(2)の医療の質向上に貢献する医薬品の研究開発費は、メーカー全体で2518億3000万円にのぼる。
対象品目は、次の5つに区分される。
(i)小児適応
(ii)希少疾病用薬(オーファンドラッグ)
(iii)アンメットメディカルニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)対応品
(iv)新規作用機序品
(v)その他(新たな投与形態など)
この専門委員報告の背景には、前回(10月16日)会合で厚労省当局が「『真に医療の質の向上に貢献する医薬品の国内開発に向けた費用(研究開発費)』と『適応外薬等の解消のための費用(研究開発費)』の合計を指標の1つとして、これと『新薬創出等加算の総額』とを比較して、加算の存在意義等を検討してはどうか」という旨の提案を行ったことがある。
厚労省当局によると加算総額は年間689億3000万円となっており、今回の専門委員報告はそれをはるかに上回る(上記(1)(2)の合計で2906億2000万円)という状況だ。
この報告に対し、中医協委員は慎重な見方をしている。
支払側の矢内委員(全国健康保険協会東京支部長)は「専門委員発表の金額と新薬創出等加算の関係は、ここからは不明である。今後、精査が必要である」とコメント。
ただし、メーカーの研究開発費は最高機密情報の1つであり、精査が可能かどうかは未知数だ。
また、安達委員は専門委員報告の(2)について「真に医療の質の向上に貢献する医薬品とは、(i)小児適応(ii)オーファンドラッグ(iii)アンメットメディカルニーズ対応品―の3つであろう」と述べ、(2)の研究開発費2500億円余りを額面どおりには受取らないとの考えを表明している。
この点、加茂谷専門委員は「(vi)の新規作用機序品について、一律に『真に医療の質の向上に貢献する医薬品』のカテゴリーから外すことは抵抗がある」と述べ、理解を求めている。