[診療報酬] 救急医療管理加算の「他に準ずる重篤状態」規定、厳しく見直す
[中央社会保険医療協議会 総会(第263回 12/6)《厚生労働省》]
精神科医療行政ニュース - 2013年 12月 13日
厚生労働省は12月6日に、中医協総会を開催した。
この日は、薬価調査・材料価格調査の結果や、改定基本方針について厚労省当局から報告を受けたほか、「勤務医等の負担軽減策」等の個別診療報酬項目について議論を行った。
◆13対1等でも「夜勤72時間」要件のみ満たせない場合の特別入院料設定へ
個別診療報酬項目に関する本日の検討テーマは、大きなものだけでも次のとおりで非常に広範囲にわたる。
●勤務医等の負担軽減等
●院内感染防止対策、救急、周産期・小児医療
●認知症対策
●褥瘡対策
それぞれについてポイントをしぼって見ていこう。
まず、「勤務医等の負担軽減」については、平成22年度・24年度の改定で重点課題にあげられており、さまざまな対策がとられている。
たとえば、負担軽減策を要件とする診療報酬項目の数を拡大(22年度は総合入院体制加算など8項目だが、24年度には15項目)したり、チーム医療推進のための点数(病院薬剤業務実施加算など)設定を行ったりなどが大きい(p8〜p11参照)。
しかし、現場の医師や看護師の感覚では「負担軽減は不十分」なようだ(p12〜p16参照)。
後述のように、勤務医等の負担軽減は、今回(26年度)改定でも「視点」の1つに盛込まれており、厚労省当局は次のような対応をとってはどうかと提案している(p7参照)。
(1)時間外・休日・深夜における内視鏡検査について、新たに【時間外緊急内検査加算】のような評価を設ける(現在、検体検査や画像診断には加算があるが、内視鏡検査のみ設けられていない(p17参照)ため)
(2)時間外・休日・深夜の処置(1000点以上の処置に限る)・手術では、重症患者が多いと考えられる(p19参照)ため、その評価において「予定手術前の当直の免除や交代勤務制の導入など」を要件として充実させる(勤務医の負担軽減等を要件として、手術料等の加算などを行うイメージ)(p25参照)
ところで、医師の負担軽減策として現場から高く評価されているのが【医師事務作業補助体制加算】だ(p29参照)。
この点、「請求業務等は医師事務作業補助者の業務内容に含まれない」という規定がある。医師事務作業補助者(いわゆる医療クラーク)に事務等を移管することで、医師本来の業務へ専念できる環境を設けることを狙った趣旨を確実なものにするためだ(p30参照)。
しかし、医師事務作業補助者の勤務場所を見ると、病棟16%、外来56%、医局13%、事務室34%、その他7%という状況で、病棟での勤務が思いのほか少ない(p35参照)。
そこで厚労省当局は、「補助者の勤務場所に一定の制限を設けた上で、医師事務作業補助者との適切な業務分担による勤務医負担軽減を更に推進(点数の引上げ等)してはどうか」と提案している(p28参照)。
この提案について厚労省保険局の宇都宮医療課長は、「場所はあくまで一例である。見直しの趣旨は、本来の『医師の負担軽減』に特化してほしいという点にある。評価充実のために、この特化という部分が必要と考えている」との追加説明を行っている。
この点、診療側の万代委員(日病常任理事)から「場所による一律の制限はいかがなものだろうか」との疑問が提示されたほか、鈴木委員(日医常任理事)から「中小病院や、将来的には診療所にもクラーク配置評価を拡大してほしい」との要望が出されている。
このほか、次のような提案も行われている。
(a)看護職員の負担軽減を図るため、重症度が高い患者を多く受入れている病棟において【夜間急性期看護補助体制加算】および【看護職員夜間配置加算】の評価の充実を検討する(p39〜p44参照)
(b)看護師の月平均夜勤時間要件(72時間以内)を満たせない場合の7対1特別入院基本料(1244点)・10対1特別入院基本料(1040点)について、13対1・15対1にも新設する(13対1・10対1入院基本料の80%程度で設定される模様)(p46〜p48参照)
(c)薬剤師の病棟配置に効果が見られることから、平成26年度以降も【病棟薬剤業務実施加算】を継続し、かつ「退院時の薬剤指導」等を病棟薬剤業務として充実させる(p51〜p65参照)
(d)療養病棟・精神病棟における病棟薬剤業務実施加算の算定を入院後4週間としている制限を見直す(p67〜p73参照)
(e)病棟薬剤業務として、退院時の薬剤指導等を充実させるとともに、入院患者に対して退院後も引続き、必要に応じて、在宅患者訪問薬剤管理指導を行うこととする。また、在宅患者訪問薬剤管理指導を薬局と同様にできるようにする(p75〜p81参照)
このうち(b)の看護師夜勤については、福井専門委員(日看協常任理事)から「13対1・15対1一般病棟では平均夜勤時間は60時間台で、要件を満たしいているとのデータもある。このような提案は必要ないのではないか?」と指摘があった。
ちなみに、施設基準を満たせない一般病棟では、1日あたり575点というとても低い「特別入院基本料」を算定することが原則だが、看護師不足の中で「夜勤72時間」要件のみを満たせない病院を救済するために、7対1・10対1病棟では「入院基本料の80%」を目安とした別の「特別入院基本料」が設定されている。
今回は、看護師不足という状況は13対1等でも同様なため、この「夜勤72時間」要件のみを満たせない場合の「特別入院基本料」を13対1等にも設けてはどうか、という提案である。
福井専門委員の指摘に対して、鈴木委員をはじめとする診療側委員は「13対1等の看護配置の薄い病院では、夜勤をしていただける看護師の確保が難しい。特別入院基本料の設定を切望する」とコメントしている。
なお、厚労省の宇都宮医療課長は「24年7月1日時点で、7対1特別入院基本料・10対1特別入院基本料の算定はゼロ件であった」ことを報告している。
また(d)の療養・精神病棟における薬剤師配置の評価について、支払側の白川委員(健保連専務理事)は「24年度改定では『本来は急性期病棟の不安定な患者の薬剤管理業務を評価するものだが、療養病棟等でも入院初期は患者の状態が不安定である』ということで、入院期間制限が設けられた。制限緩和等は認めるべきでない」と反論している。
これに対し、診療側の三浦委員(日薬理事)は「長期間の算定を認めよとは要望していない。4週間を超えても不安定な患者がおり、そこに対する薬剤管理業務等は評価してほしい」と要望している。
◆救急医療管理加算、「他の項目に準ずる重篤な状態」を厳しく見直す
24年度改定では、医療安全対策とは別個に、独立した【感染防止対策加算】が新設された。新興・再興感染症が散見されたことを受け、感染拡大防止に積極的に取組む医療機関を評価するものだ(p86参照)。
感染防止対策加算は、【加算1】と【加算2】に区分され、【加算1】では「加算1を算定している医療機関を中心に、加算2を算定する医療機関と年4回以上合同カンファレンスを開催していること」などの要件が設定されているほか、「地域や全国のサーベイランスに参加していることが望ましい」とされている。
厚労省は今回、「【加算1】の算定にあたっては、サーベイランスに参加することを必須とし、特に地域で独自に行っているサーベイランス事業が存在していない場合はJANIS事業(平成12年から行われている院内感染対策サーベイランス事業)への参加を要件とする」ことを提案している(p84参照)。
サーベイランスに参加することで、自施設の耐性菌分離率や抗菌薬の感受性率の位置づけ、その経年的な推移が把握できるので、院内感染対策委員会等の資料として活用することが可能となり、感染対策能力が向上すると期待される(p87〜p89参照)。
24年度改定の結果検証調査結果からは、【加算1】算定病院のうち70.7%がJANIS事業に参加していることがわかる(p91参照)。
一方、救急医療については、【救急医療管理加算】の算定要件における「その他、他項目に準ずるような重篤な状態」の患者については、患者像が不明確なことから評価を見直してはどうか、との提案が行われた(p94参照)。
【救急医療管理加算】は、命にかかわるような重篤な状態の患者に対し、濃密な医療を提供した場合に、1日につき800点を7日間算定できるとするもの。対象患者は「意識障害または昏睡」「広範囲熱傷」「呼吸不全または心不全で重篤な状態」などとされているが、すべてを列挙することはできないため、これらに「準ずるような重篤な状態」も対象とされている(p96参照)。
この点、DPC評価分科会におけるヒアリングで、一部医療機関においては「準ずる状態」といった曖昧な表現を逆手にとり、単なる発熱でも『その他、他項目に準ずるような重篤な状態』であるとし【救急医療管理加算】の対象としている状況が散見されたことや、審査支払上で問題となっている状況(p98〜p100参照)などを受け、「適正化が必要」との判断が行われたもの。
この提案に対しては診療側委員から異論が出されている。
鈴木委員は「一律に廃止するのは乱暴ではないか。中身の分析が必要と考える」とコメント。
また長瀬委員(日精協会長)は「重篤な精神疾患患者について、【救急医療管理加算】を算定する場合には、『準ずるような重篤な状態』としている。廃止するのであれば『せん妄』などの明示が必要」と提案している。
この点、「他項目に準ずるような重篤な状態」を削除してしまうことは、明示されていない状態の患者では【救急医療管理加算】をまったく算定できないこととなり、いささか厳しいものになろう。
厚労省保険局医療課の担当者は、「もっとも厳しい手法は削除することであろう、次に厳しい手法が、『準ずるような重篤な状態』に該当する場合には点数を引下げるものではないか」とコメントしており、具体的な見直し内容の策定にはさらなる検討が行われる模様だ。
このほか、救急医療については次のような提案が厚労省当局から行われている(p101〜p111参照)。
●状態が不安定な患者を一時的に高次医療機関へ搬送し、治療を継続するために再び搬送元の医療機関等へ搬送する場合(一般病棟入院基本料を算定)について、医師が同乗して診療が行われた場合の評価を行う
●【救命救急入院料】における精神疾患診断治療に関する評価は「救命救急入院料の算定期間中、精神科医が最初に行ったもの」について算定することを明確化する
●【救命救急入院料】における薬毒物中毒患者の分析に係る評価について、「単なる薬物血中濃度測定等を行う場合」と「中毒学会ガイドラインに基づく詳細な分析装置を用いた場合」とで評価を分け、高度救命救急センター以外の救命救急センターでも算定可能とする
●【夜間休日救急搬送医学管理料】について、精神疾患を合併する患者や薬毒物中毒患者について新たな評価を設ける
なお、周産期・小児医療については、厚労省当局から次のような提案がなされている(p113〜p135参照)。
●【新生児特定集中治療室退院調整加算】について、ハイリスクの患者に早期から退院調整を行うことを要件とする(NICUからの退出状況に下止まりが見られるため)
●周産期医療センター等と連携し、在宅へ帰ることを前提として急性期病院でNICU後の重症児を受入れることや、当該病院における退院支援を評価する
●連携先の医療機関で在宅療養指導管理料を算定している場合であっても、他の医療機関で行われた指導管理と別の指導管理が行われた場合については、在宅療養指導管理料を算定可能とする
●パリビズマブ(RSウイルス感染による重篤な下気道疾患の発生を抑制する医薬品)については、ゼロヵ月児の用量で7万6819円、3ヵ月児の用量で15万2072円と非常に高額なため、医療機関の負担を考慮し、注射当日の診療は小児科外来診療料ではなく、出来高で算定する
◆診療所型の認知症疾患医療センターを診療報酬で評価
高齢化が進展する我が国では、認知症対策の充実も急務とされている。「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)では、早期診断・早期治療などの推進を打出している。
早期診断により「認知症の原因疾患」を明らかにし、より適切な対応(疾患によっては治癒も見込める)をとることが、治療成績に大きく関係してくるためだ。
これを受け厚労省は、「認知症疾患医療センター診療所型(仮称)についても、他医療機関からの紹介を受けて認知症の鑑別診断を行った上で療養方針を決定した場合や、認知症の症状が増悪(BPSD)した患者の紹介を受けて、療養計画を示した場合、認知症疾患医療センターに準じた評価をする」ことを提案している(p138参照)。
厚労省は、全国9施設において「認知症疾患医療センター診療所型(仮称)」のモデル事業(試行)を行っており、「周辺症状外来対応機能」「鑑別診断機能」「地域連携機能」が高いことなどが明らかになっている(p146参照)。
また、上記のオレンジプランでは、認知症の早期診断を行う医療機関を平成29年度までに約500ヵ所整備する構想を打立てており(p148参照)、認知症疾患医療センター診療所型(仮称)を診療報酬上で評価することで、早期診断の充実を加速させたい考えだ。
この点、診療所型について「認知症疾患医療センターに準じた評価」と提案されているが、点数設定や施設基準などは今後検討されることになろう。
また厚労省は、【重度認知症加算】について「より短期間に限り、重点的に評価する」という見直し案も提示している(p151〜p157参照)。
【重度認知症加算】は、BPSD改善のために入院初期の濃密な対応を評価するもので、現在「3ヵ月間、1日につき100点」を算定できる(p153参照)。
しかし、厚労省の研究によれば「入院から1ヵ月程度でBPSDはほぼ改善する」ことがわかっており、算定期間を1ヵ月程度に短縮し、一方で点数引上げを行ってはどうかというものだ(p155参照)。
さらにBPSD対策として、「精神症状および行動異常が特に著しい重度の認知症患者を対象とした認知症疾患治療病棟に入院したBPSD患者に対して、認知症リハビリテーションを行うことを評価してはどうか」との提案もあわせて行われている(p159〜p165参照)。
◆褥瘡の発生状況やICUの看護必要度など、次回論議に持越し
この日は、次のような提案も行われている。ただし審議時間が足らず、議論は次回以降に持越しとなった。
【褥瘡対策】(p167〜p182参照)
●褥瘡対策を推進していくために、特定日の褥瘡の患者数、院内発生患者数等の報告を求める
●DPCデータを提出している病院については、データ提出の仕組みを活用し、入退院時の褥瘡の状況について提出を求める
●訪問看護利用者についても褥瘡の状態のリスク評価について明確に規定する
●訪問看護ステーションについても褥瘡の患者数、過去1ヵ月の褥瘡発生患者数等の報告を求める
●在宅ですでに褥瘡が発生している患者については、チームによる褥瘡ケアを評価する
【ICU等】(p183〜p194参照)
●【ハイケアユニット入院医療管理料】における重症度・看護必要度の評価方法を、現行の「A項目3点以上またはB項目7点以上」から「A項目3点以上かつB項目7点以上」とするとともに、評価項目を一般病棟用の重症度、医療・看護必要度(仮称)の見直しの方向性を踏まえ修正する(一定期間の経過措置の設置や、基準該当患者割合の緩和等について検討する)
◆25年の薬価乖離率は8.2%、材料価格乖離率は8.9%
この日は、厚労省当局から薬価調査と材料価格調査の結果も報告された。
これは、公定価格(薬価、材料価格)と、医療機関と卸業者間の取引価格(市場実勢価格)との開きを調べるもの。
この開きが大きい場合には、「保険財源を無駄に費消している」「患者に過大な負担を与えている」という問題が生じていることを意味するため、薬価の引下げが行われることになる。
調査結果によると、薬価については平均で約8.2%(前回調査では約8.4%)、材料価格については平均で約8.9%(前回調査では約7.7%)の乖離(価格の開き)があることが分かった。薬価では乖離が縮小し、材料価格では乖離が拡大している状況だ(p195〜p197参照)。
◆26年度改定基本方針を公表、一体改革を「重点課題」に据える
中医協改革により、現在、診療報酬改定は(1)基本方針を社会保障審議会の医療部会・医療保険部会で策定する(2)改定率を予算編成過程で内閣が決定する(3)基本方針と改定率にそって中医協で改定内容を検討する―という構造になっている。
11月22日には医療部会で、11月29日に医療保険部会で、改定基本方針が概ね了承され、その後の調整を経て、この日、中医協に報告されたものだ。なお、基本方針は、形式的には年明けに中医協の森田会長に宛てて正式提示されることになっている。
基本方針は、『重点課題』と『改定の視点』で構成される(p198〜p204参照)。
『重点課題』は、「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等」の1本に絞られており、社会保障・税一体改革を、診療報酬改定を通じて推進していく構えだ。
『改定の視点』は、従来を踏襲し次の4項目が打出された。
(i)充実が求められる分野を適切に評価していく視点
(ii)患者等から見て分かりやすく納得でき、安心・安全で質の高い医療を実現する視点
(iii)医療従事者の負担を軽減する視点
(iv)効率化余地があると思われる領域を適正化する視点