[精神医療] 精神科救急では医師の重点配置、慢性期ではPSW配置を評価
[中央社会保険医療協議会 総会(第261回 11/29)《厚生労働省》]
精神科医療行政ニュース - 2013年 12月 06日
厚生労働省は11月29日に、中医協総会を開催した。
この日は、入院医療(前回の積残し)と精神医療について議論したほか、平成24年度改定にかかる結果検証調査結果速報の報告を受けるなどした。
◆医療資源の乏しい地域の診療報酬特例、要件等緩和して継続
入院医療については、前回(11月27日)会合で(1)一般病棟入院基本料における「重症度・看護必要度」等(2)亜急性期入院医療管理料等(3)医療提供体制が十分ではないものの、地域において自己完結する医療を提供している医療機関に配慮した評価(4)入院医療や外来診療の機能分化の推進や適正化―のそれぞれについて厚労省当局から論点が提示された。
このうち(3)「医療資源の乏しい地域の特例」と(4)「入院医療の適正化、外来機能分化」に関する議論は持越しとなっており、この日の審議となった。
まず(3)の「医療資源が不十分な地域の医療機関に配慮した評価」については、次のような提案がなされている(p107〜p121参照)。
(i)当該評価(病棟ごとの入院基本料設定や、チーム医療の要件緩和など)について、26年度診療報酬改定後も引続き利用状況を検証していくことを前提に評価を継続する
(ii)当該評価がほとんど利用されていない実態を勘案し、対象医療機関は継続した上で、24年度改定での評価項目とは別に「亜急性期入院医療の今後の評価体系の要件を緩和した評価」を導入することとし、「チーム医療等に係る評価については、対象の範囲を拡大するとともに専従要件等を緩和」し、それに応じた評価とする
(iii)夜勤72時間の緩和対象となる特定一般病棟入院料について、全病棟ではなく一般病棟が1病棟のみの病院を対象に加える
「地域別診療報酬の先駆けとなるか」と注目されている仕組みであり、この提案には特段の反対は出されず、この方向が了承された格好だ。
◆多剤投与にかかる規制、診療側は「疾病構造に合致していない」と撤廃要望
(4)の「入院医療や外来診療の機能分化の推進や適正化」は、大きく(i)入院医療の適正化と(ii)外来診療の機能分化に分けられよう。
このうち(i)の入院医療の適正化では、「24年度改定後、金曜日入院、月曜日退院、正午までの退院に関して、医療機関の動向に大きな変化は見られないが、これらの評価については今後も継続してはどうか」という論点が示された(p123〜p132参照)。
他方、(ii)の「外来医療における機能分化」では、次の提案が行われている(p133〜p145参照)。
(a)許可病床数500床以上のすべての病院(精神科単科病院や療養病床のみの病院を除く)について、紹介率40%未満かつ逆紹介率30%未満の施設は24年度改定と同様の取扱い(初診料・外来診療料の減額)とする
(b)特定機能病院と一般病床500床以上の地域医療支援病院については、外来のさらなる機能分化と逆紹介の推進のため、紹介率50%未満かつ逆紹介率50%未満の施設を初診料・外来診療料の減額対象とする
ただし、(a)について長瀬委員(日精協会長)は「精神科単科は限定しすぎである。精神科病床のある病院といった具合に除外対象を広げてほしい」と要望している。
また、外来機能分化の更なる推進の観点から、「『紹介率50%未満かつ逆紹介率50%未満の特定機能病院と一般病床500床以上の地域医療支援病院』および『それ以外の許可病床数が500床以上の全ての病院(精神科単科病院や療養病床のみの病院を除く)』のうち、紹介率40%未満かつ逆紹介率30%未満の病院については、一部の薬剤を除き、原則的に投薬日数によって投薬に係る費用(処方料、処方せん料、薬剤料)を制限する」ことが提案されている(p147〜p161参照)。
この点に関連し診療側の安達委員(京都府医師会副会長)は、「例外と原則が逆転してしまっている。療養担当規則のうち『投薬量』に関する記載を見直す必要がある」と指摘している。
さらに、厚労省当局からは「多剤投与の実態とその患者に及ぼす影響を勘案し、多剤投与の評価を見直す」との提案がなされている(p163〜p173参照)。
この日は、最後にあげた「多剤投与」が議論の中心となった。
保険診療上は、「7剤以上の医薬品を投与した場合には、処方料、処方せん料、薬剤料が減額される」仕組みが導入されている。
これは、かつて薬価差が大きかった時代に「医療機関が大きな薬価差益を得るために、多剤投与をしているのではないか」等の批判が大きかったことなどを背景に導入されたものだ。
しかし安達委員は、「高齢化の進展で疾病構造が変化しており、複数の生活習慣病をかかえる高齢者には複数の医薬品を処方することが必要だ。たとえば大学病院にかかって3剤を処方されていた高齢者が、診療所に逆紹介され、その診療所で大学病院と同じ3剤、さらに生活習慣病に対する4剤を処方した場合には、7剤となり規制にかかってしまう。しかし、その患者が大学病院にかかりつづければ、いずれの医療機関も多剤投与の規制を受けない。これでは外来機能分化に逆行してしまう。こうしたことを考慮し、多剤投与にかかる規制は撤廃すべきだ」と強く主張した。
一方、支払側の白川委員(健保連専務理事)らは「多剤投与にかかる規制は維持し、安達委員が指摘したような問題をどう是正するのか、また剤数(7剤のままでよいのかなど)をどう考えるかといった点について議論していくべきだ」とコメントするにとどめている。
この点、安達委員は「多剤投与する場合には、禁忌を含めた副作用などを考慮する必要があり、減算どころか、加算をつけてほしいくらいだ」と述べ、支払側の慎重姿勢に苛立ちを見せている。
こうした議論を受け森田会長(学習院大法学部教授)は、「多剤投与にかかる規制について議論するため、さらに論点を整理してほしい」と厚労省当局に指示している。
◆精神科救急では医師の重点配置、慢性期ではPSW配置を評価
精神医療については、「入院期間が極めて長い」「地域移行が進まない」といった大きな課題を解決するために、政府は『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律』を一部改正し、【精神障害者の医療の提供を確保するための指針】を策定することとした。
厚労省は、検討会を設置して指針の策定作業を進めており、平成25年度中に指針が告示される模様だ。
現在、検討会では中間まとめを行っており、(1)精神病床の機能分化を進め、長期入院を是正し、地域移行を進める(2)精神障害者の居宅等における保健・福祉サービスを充実させる―などの方向が打出されている(p177〜p187参照)。
平成26年度の診療報酬改定でも、この(1)「長期入院是正と地域移行」と(2)「サービスの充実」という方向を進めるための手当てを行う構えだ。
厚労省当局は、(i)病床機能分化(ii)地域移行と地域定着(iii)身体合併症への対応(iv)抗精神病薬の処方等―の4分野について論点を提示している。
(i)の「病床機能分化」については、次のような提案が行われた(p189参照)。
(a)急性期に密度の高い医療を提供するため、【精神科急性期治療病棟入院料】を算定する病棟に医師を重点的に配置すること、クリニカルパスを使用したことを評価してはどうか(p190〜p199参照)
(b)【精神療養病棟入院料】を算定する病棟について、「病棟ごとに常勤の精神保健指定医を配置する」規定を廃止してはどうか(指定医でなければならない業務は少なく、一般の精神科医師でも可とする)(p200〜p205参照)
(c)【精神療養病棟入院料】および【精神科入院基本料】において、精神保健福祉士を配置することを評価してはどうか(p206〜p211参照)
(d)精神科救急医療の推進を図るため、【精神科救急入院料】と【精神科救急・合併症入院料】においての措置入院・緊急措置入院および応急入院の実績に係る要件について、現状に即した数値に見直してはどうか(p212〜p215参照)
(a)は、「急性期においては、100床あたりの医師数と平均在院日数に相関がある(医師密度が高いと早期退院につながる)」(p194参照)ことなどを背景に、医師の重点配置等を高く評価する提案だ。
この点、長瀬委員は「医師の重点配置とクリニカルパス導入をセットで要件化した場合、現場の対応には時間がかかる」とし、別個の評価(医師の重点配置とパスを別立てで評価する)とするか、セット評価の場合には時間的猶予を設けることを求めている。
(c)は、急性期とは少し異なり、「慢性期では、100床あたりのPSW(精神保健福祉士)の数と平均在院日数に相関がある」(p211参照)ため、PSWの配置を診療報酬で評価してはどうかとの提案だ。
長瀬委員は、この提案に関連して「PSWのみならず、OT(作業療法士)配置も診療報酬で評価すべきではないか」と要望している。
(ii)「地域移行・地域定着」に関して、厚労省が示した提案は次のような内容だ。
(a)多職種(精神科医、看護師、精神保健福祉士等)による、治療方針を決めるための定期的な会議や24時間体制での支援を行っている医療機関等による在宅医療について、充実した評価を行う(p219〜p234参照)
(b)精神科デイ・ケア等の適切な利用を推進する観点から、たとえば「1年以上利用した場合の評価(回数制限など)」を導入してはどうか(p236〜p241参照)
前者の(a)は、24年度改定結果検証調査結果から「地域移行を進めるためには、頻回(たとえば24時間体制、毎日など)の、看護師・ケースワーカー等による訪問サービスなどが必要」との意見が多かったことを受けて提案されているものだ。
この点、長瀬委員は「地域移行が進まない背景には、地域の偏見(家族による拒否や、グループホーム等建設への地域住民拒否など)があり、この点への対策も重要だ」と問題提起している。
また(b)について長瀬委員は、「1年以上の精神科デイ・ケアは週5回までとしてはどうか」と提案し、あわせて「再入院の場合にはリセットしてほしい」との要望も行っている。
(iii)の「身体合併症対応」に関する提案は、次のようなもの(p243〜p253参照)。
●【精神科救急・合併症入院料】については、精神科単科病院から受入れた場合や、当該病棟に入院し、手術等により一時期ICUで過ごした後再転棟した場合も、当該入院料を算定できることとする
●通院・在宅精神療法の20歳未満加算について、加算の起算日を当該医療機関の精神科へ最初に受診した日とする(1年を超えて通院している患児が同じ医療機関の精神科を紹介された場合でも加算を算定できるようになる)
両者の見直しにより、精神科患者の身体合併症を受入れる「精神科のある総合病院」の経営安定化が期待される。
なお、この点に関連して長瀬委員は、A230-3【精神科身体合併症管理加算】について「算定日数(現在は7日間)の延長と、対象疾患(現在は広範囲熱傷患者など)の拡大」を要望している。
(iv)の「抗精神病薬の処方等」については、次の4つの提案が行われた(p255〜p266参照)。
(a)適切な投薬を推進する観点から、非定型抗精神病薬加算2を削除する
(b)通院・在宅精神療法、心身医学療法について、精神科継続外来支援・指導料と同様に、多量の処方を行った場合の減算を設ける
(c)減算の対象薬剤に、抗精神病薬を加える
(d)抗精神病薬の大量投与の減算基準を別途設定する
このうち(a)の「非定型抗精神病薬加算2の削除」について長瀬委員は、「重篤な患者が対象になることが多く、削除しないでほしい」と要望している。
また(c)(d)の多剤抑制案に関連し、厚生労働科学研究による「減量単純化によって、6ヵ月で約1000mgから介入後800mg程度まで安全に減量可能なケースもある」ことを厚労省は紹介している(p265参照)。
なお厚労省当局は、その他として「被虐待児への適切な医療の提供を推進する観点から、児童・思春期の精神医療の経験を有する精神保健指定医等が、児童相談所等と連携しつつ被虐待児の診療を行う体制を有する保険医療機関を評価する」との提案も行っている(p268〜p274参照)。
この点、診療報酬での対応が必要なのだろうかとの疑問もわくが、厚労省保険局の宇都宮医療課長は「被虐待児の心のケアが不十分な場合があり、また虐待する親には精神的な問題のあるケースも見られる。これらを児童相談所と専門医療機関とが連携して対応することが重要ではないかと考えている」とコメントしている。
◆介護保険リハビリへの移行できない脳血管疾患等患者、1病院あたり4.3人
この日は、24年度改定(前回改定)の結果検証調査結果(25年度調査)の速報も報告された。今回報告されたのは次の2つの調査結果。
(1)病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善についての状況(p275〜p498参照)
(2)維持期リハビリテーション及び廃用症候群に対する脳血管疾患等リハビリテーションなど疾患別リハビリテーションに関する実施状況(p499〜p629参照)
(1)の勤務医等負担軽減については、「診療実績に応じた医師への報酬体系(嘉山前委員の言う『ドクターフィー』)を7.0%の病院が採用している」(p346参照)、「医師の負担軽減策として導入されている内容としては、『医師事務作業補助者の配置』『看護補助者の配置』『地域の他の医療機関との連携体制』などが多い」(p369〜p370参照)、「勤務医負担軽減のためには、『職員配置の増員』『経済面での処遇改善』などが必要と考える意見が多い」(p436参照)などが明らかになった。
(2)のリハに関しては、要介護被保険者に対する維持期の運動器・脳血管疾患等リハを26年4月から介護保険へ移行する方針が24年度改定で示されている。
この点、調査からは「介護保険への移行が難しい患者が、病院平均で運動器では1.4人、脳血管疾患等では4.3人、診療所平均で運動器では1.3人、脳血管疾患等では1.0人いる」ことや、「介護保険への移行が難しい最大の理由は『患者の心理的抵抗感』である」ことなどが明らかになっている(p530〜p532参照)。
この点を捉えて診療側の鈴木委員(日医常任理事)は、「要介護被保険者の維持期リハだからといって、一律に介護保険へ移行させることは難しい状況だ。一定程度、医療保険給付とすべきではないか」とコメントしている。
なお、新たな臨床検査として「生体由来の組織から抽出したDNA中のEGFR遺伝子変異の検出を目的とした『EGFR遺伝子』のリアルタイムPCR法での測定(2500点)」の1件について、12月1日(予定)から保険適用することを了承している(p3〜p5参照)。