[診療報酬] 26年度改定基本方針の骨子案、重点課題は「一体改革実現」の1本
[社会保障審議会 医療保険部会(第70回 11/8)《厚生労働省》]
精神科医療行政ニュース - 2013年 11月 15日
厚生労働省は11月8日に、社会保障審議会の「医療保険部会」を開催した。
この日の議題は、(1)国保・後期高齢者医療の保険料の賦課限度額(2)地域医療ビジョン実現に必要な措置(3)平成26年度診療報酬改定の基本方針策定―の3点。
◆一体改革の実現を重点課題に据え、従前を踏襲する4つの視点を提示
まず、(3)の26年度改定基本方針について見てみよう。厚労省当局から骨子案が示されている(p29〜p32参照)。
今回の基本方針について厚労省は、重点課題を「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等」の1本に絞って提案している(p29参照)。
これは、社会保障・税一体改革を、診療報酬の側面から強く推進していこうという意気込みの現れといえよう。
また改定の視点については、従前の基本方針を踏襲して次の4本としている(p30参照)。
(i)充実が求められる分野を適切に評価していく視点
(ii)患者等から見て分かりやすく納得でき、安心・安全で生活の質にも配慮した医療を実現する視点
(iii)医療従事者の負担を軽減する視点
(iv)効率化の余地があると思われる領域を適正化する視点
では、具体的な内容について見てみよう。
◎重点課題「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等」(p31参照)
まず【入院医療】について、「急性期病床の機能の明確化」「急性期後の受け皿となる病床の整備」「有床診の機能に応じた評価」などを掲げている。
病床機能分化を進め、効率的かつ質の高い医療を実現しようというものだ。
また【外来医療】については、「診療所・中小病院の主治医機能の評価」と「大病院の専門外来の評価」などをあげている。
一方、【在宅医療】では、「在宅療養支援診療所・病院の機能強化」「在支診・病以外の医療機関による在宅医療の推進」「訪問看護ステーションの大規模化の推進」「在宅歯科医療、在宅薬剤管理指導の推進」などが掲げられた。
さらに、【連携ネットワーク】として、「入院、在宅、歯科、薬局、看護、介護等のネットワークにおける円滑な移行や切れ目のない連携」を進めるとしている。
これらは、当然のことながら、先に(9月6日)にまとめられた「一体改革関連部分の基本方針」(p61〜p64参照)を踏まえたものだ。
◎改定の視点
(i)充実が求められる分野を適切に評価していく視点
具体的な項目として、「がん医療」「精神疾患に対する医療」「認知症対策」「救急医療、小児医療、周産期医療」「リハビリテーション」「口腔機能の維持向上等、生活の質に配慮した歯科医療」の推進や、「手術等の医療技術の適切な評価」「医薬品、医療材料等におけるイノベーションの適切な評価」が提示された(p31参照)。
この点に関して、鈴木委員(日医常任理事)は「今後は、在宅医療における栄養管理が重要になる。診療報酬での評価を検討すべき」と提案している。
(ii)患者等から見て分かりやすく納得でき、安心・安全で生活の質にも配慮した医療を実現する視点
ここでは、「医療安全対策等の推進」「明細書無料発行の推進」「診療報酬点数表の平易化・簡素化」「患者データの提出」といった項目があげられている(p32参照)。
これまでにない「患者データの提出」が目を引くが、厚労省保険局の宇都宮医療課長は「中医協の下部組織である入院医療等分科会では『7対1病院でDPCデータの提出を義務付けてはどうか』という提案がなされ、また社会保障審議会・医療部会でも患者データ提出を評価すべきとの意見が出されている」と説明している。
(iii)医療従事者の負担を軽減する視点
負担軽減については、これまで病院の勤務医・看護職員など限定された職種が対象となっていたが、今回は広く「医療従事者」と設定されている。
この点について白川委員(健保連専務理事)は、「そこまで広く設定すべきか疑問だ。納得できない」と述べているが、鈴木委員は「病院に勤務する医師や看護師のほかにも多忙な医療従事者はいる。このままでよい」と反論している。
具体的には、「医療従事者の負担軽減」「救急外来の機能分化の推進」「チーム医療の推進」などがあげられた(p32参照)。
(iv)効率化の余地があると思われる領域を適正化する視点
ここでは「後発医薬品の使用促進」「長期収載品の薬価の特例的な引下げ」「平均在院日数の減少、社会的入院の是正」「医薬品、医療機器、検査等の適正な評価」などが掲げられている(p32参照)。
この点について小林委員(全国健康保険協会理事長)は、「なぜ適正化が必要なのかを明示すべきであろう。たとえば『国民負担を最小限度にとどめるため』などと示すべき」と提案している。
このほか、26年度改定では『消費税率8%への引上げに伴う対応』も行われる。
この点については、「診療報酬とは別建ての高額投資対応は実施せず、診療報酬改定により対応」することや、「基本診療料・調剤基本料への上乗せによる対応を中心としつつ、個別項目への上乗せを組合わせる形で対応することを基本」とする、という具合に、中医協の消費税分科会の議論を後追いする内容となっている(p32参照)。
さらに、『将来に向けた課題』として、「2025(平成37)年に向けて、医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等に取組む」こと、「医療技術の費用対効果評価について検討」することも盛込まれる模様だ(p32参照)。
この点、横尾委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長・多久市長)は「たとえば『がんになっても怖くない社会』などという具合に5年、10年先のビジョンを示し、そこに2年に1度の改定を組込むことで国民にも分かりやすい診療報酬改定となるのではないか」とコメントしている。
このように委員からはさまざまな意見が出ているが、方向は了承されたと考えてよいであろう。
遠藤部会長(学習院大経済学部長)は「次回以降、取りまとめに向けた議論に入りたい」と述べ、厚労省当局に基本方針案の策定に入るよう指示している。
◆国保と後期高齢者医療、保険料負担の上限を引上げ
(1)は、負担の公平性を高めるために、国保と後期高齢者医療制度における保険料(税)の賦課限度額(上限)を引上げてはどうかという提案だ。
社会保険制度では「能力(収入等)に応じた保険料を負担する」ことが原則となるが、我が国では「高所得だからといってあまりに高い負担を課したのでは、保険制度への加入意欲が薄れ、また給付と負担とのバランスが崩れる」ために、保険料負担には上限が設けられている。
現在、国保では年間77万円(医療分は65万円)(p13〜p15参照)、後期高齢者医療では年間55万円(p19参照)となっている。
この点について、社会保障・税一体改革の中では「加入者間の負担の公平性」を推進することが掲げられ、高所得者にも「もう少し負担していただこう」との考えのもと、今般、厚労省当局から【国保では年間81万円(医療分は67万円)】(p16〜p18参照)、【後期高齢者医療では年間57万円】(p20参照)に引上げる提案がなされた。
この提案は概ね了承されている。
ただし、国保では、多くの市町村が保険料ではなく保険税を採用しており、負担上限は市町村の条例で決められている。このため厚労省は政令改正で「負担上限の引上げ」を行い、これを目安として市町村の条例改正を待つことになる(p26参照)。
なお、27年度には健保法改正が予定され、健保組合や協会けんぽにおいても保険料の負担上限が引上げられる見込だ。これにあわせて国保・後期高齢者医療の負担額上限も再検討される模様である。
◆地域医療ビジョン実現に向けた都道府県別診療報酬、医療保険部会では慎重論
(2)は、医療提供体制改革の重要項目である「地域医療ビジョン」策定に関するものだ。
社会保障審議会の「医療部会」では、地域医療ビジョン策定に関する事項を検討している(p33〜p60参照)が、その中には医療保険に関連する項目もある。
具体的には、次の2点だ。
(i)地域医療ビジョンを実現するために、医療計画等について保険者協議会(国保、健保組合、協会けんぽ、後期高齢者医療等の代表者で構成)の意見をきくこととしてはどうか(p47〜p48参照)
(ii)地域医療ビジョン実現に向けて、医療費適正化計画と同じように、都道府県知事が診療報酬に意見を提出できる仕組みを設けてはどうか(つまり都道府県別の診療報酬)(p53〜p54参照)
この日は、この2点についても議論を行った。
保険者を代表する白川委員は「(i)については、医療計画を策定する地方の医療協議会等の委員に保険者代表を入れれば済む。(ii)については、全国単位の被用者保険では都道府県別診療報酬は混乱する」と述べ、いずれの提案にも反対している。
また、医療提供者を代表する鈴木委員も白川委員と同旨の見解を披露している。