[改定速報] 消費増税対応の改定論議、計算式や改定率は年末に内閣が判断
[診療報酬調査専門組織・医療機関等における消費税負担に関する分科会(第9回 11/14)《厚生労働省》]
平成26年度 診療報酬改定 完全速報 - 2013年 11月 14日
厚生労働省は11月14日に、診療報酬調査専門組織の「医療機関等における消費税負担に関する分科会」を開催した。
この日は、消費税8%対応に向けて技術的な検討を行った。
具体的には、「消費増税対応についてどの程度のプラス改定を行うべきか」というテーマについて議論したわけだが、改定率は内閣が年末の予算編成で決定するため、この点について分科会で議論すべき事項はなくなり、いくつかの要望を委員が述べる形で、本テーマに関する議論を終えている。
◆「薬・材料以外の課税費用」と「減価償却費」の合計で、医業費用の22%
社会保険診療は消費税非課税であるため、医療機関には「控除対象外消費税(いわゆる損税)」が生じている。これを補填するために、平成元年の消費税導入時(3%)、9年の消費税率引上げ時(5%)には特別の診療報酬プラス改定が行われてきた。
今回の8%引上げにおいても、診療報酬プラス改定で対応することが決まっている。
現時点での注目は、「どの程度のプラス改定が行われるか」に集まっている。
この点、医療機関の費用構造を勘案する必要がある。医療機関が負担する消費税は、すべての医療機関の支出に付随するものではないからだ。
医療機関の費用を、消費税負担にからめて分類すると、次の3つに分けることができる。
(1)そもそも消費税非課税であり、医療機関が消費税負担をしていない部分(給与費等)
(2)消費税が課税されているが、実際には患者負担にも消費税分が含まれており、医療機関が実質的な負担をしていない部分(医薬品費、特定保険医療材料費)
(3)消費税が課税され、患者について消費税非課税となっているため、医療機関が負担している部分(委託費等)
このうち(3)が控除対象外消費税を生んでいる部分であり、医療機関の費用の中でどの程度の割合を占めているかが注目されている。
厚労省は、第19回医療経済実態調査結果をもとに分析し(p3〜p12参照)(p14参照)(p15〜p51参照)、平成24年度の費用構造は次のようになっていることを発表した(p13参照)。
●全体:(1)の給与費等が52.3%、(2)の医薬品・材料費が25.8%(薬22.6%、材料3.2%)、その他が22.0%(その他課税費用17.4%、減価償却費4.6%)
●医科:(1)の給与費等が57.3%、(2)の医薬品・材料費が18.0%(薬14.5%、材料3.5%)、その他が24.6%(その他課税費用19.3%、減価償却費5.3%)
○うち病院:(1)の給与費等が56.6%、(2)の医薬品・材料費が18.6%(薬14.1%、材料4.5%)、その他が25.9%(その他課税費用19.9%、減価償却費6.0%)
○うち診療所:(1)の給与費等が61.3%、(2)の医薬品・材料費が16.5%(薬15.6%、材料0.9%)、その他が22.2%(その他課税費用18.5%、減価償却費3.7%)
●歯科:(1)の給与費等が61.8%、(2)の医薬品・材料費が7.9%(薬1.2%、材料6.7%)、その他が30.2%(その他課税費用24.8%、減価償却費5.4%)
●調剤:(1)の給与費等が25.2%、(2)の医薬品・材料費が68.5%(薬68.3%、材料0.2%)、その他が6.3%(その他課税費用5.3%、減価償却費1.0%)
このうち「その他」の割合(たとえば全体では22.0%)が、そのまま控除対象外消費税に結びつくわけではない。厚労省保険局医療課の竹林保険医療企画調査室長は、「減価償却費のすべてが課税対象か否かについては争いがある」とコメントしている。
ところで、平成9年の消費税対応・診療報酬プラス改定時には、減価償却費のすべてが課税対象と認められ、次のような計算式で診療報酬本体の改定率を算出した。
【課税対象の費用割合】×【消費税率引上げ幅】×【消費者物価への影響】
厚労省は、8月2日の分科会で、上記の計算式を用いて機械的に26年度の消費税対応分改定率を計算すると「診療報酬本体について、約0.5%のプラス改定」という試算結果を示している。
今般の医療経済実態調査をもとにした数字を当てはめると、【課税対象の費用割合(上記の「その他の費用」、全体でいえば22.0%)】が若干減少していることから、0.5%よりも小さな改定率が導かれることも予想される。
もっとも、厚労省保険局医療課の担当者は、「たとえば減価償却費のすべてを課税対象に含めるか否かを含め、計算式は内閣が予算編成過程で決定することになる。現時点で改定率がどの程度になるかは未知数である」とコメントするにとどめており、消費増税分のプラス改定率は内閣の決定を待つほかない。
◆改定率計算で「消費者物価を勘案するか否か」、委員間で意見分かれる
上記の計算式では【消費者物価への影響】が勘案されている。
これは「消費増税があったからといって、その分がすべて価格に反映されるわけではない」という点を論拠にしている。
しかし、診療側はこの説明に納得していない。
今村委員(日医副会長)は、この日、平成9年(1997年)に当時の経済企画庁が『事業者間取引における物価である卸売物価への消費税率引上げの影響について、消費税率引上げ分が完全に転嫁された場合、物価上昇率は消費税率引上げ幅に近い値になる』と解説している点を引合いに出し、「26年度の消費増税対応プラス改定の計算式では、『消費者物価への影響』を勘案せずに、消費税率をそのまま用いるべき」と改めて主張している(p58〜p66参照)。
この主張には、他の診療側委員(日歯常務理事の堀委員や、日薬常務理事の森昌平委員ら)も賛同している。
一方、支払側の白川委員(健保連専務理事)や藤原委員(日本経団連総合政策局長)は、「消費増税がそのまま価格に反映されるわけではない。過去の経緯を考えれば、消費者物価の影響を勘案することには一定の理由があると考えられる。計算式等は政府に一任すべきであろう」とコメントしており、意見の一本化には至らなかった。
◆消費増税対応の改定率、通常改定率と別個に明示するか否かは内閣が判断
これまで見てきたように、消費税対応を含めて診療報酬改定率は予算編成過程で内閣が決定する。
その際、医療経済実態調査に基づく資料や、本分科会(ひいては中医協総会)の意見は参考資料にとどめられる。
改定率については、複数の委員から「通常の改定部分と、消費増税対応部分は分けて示されるべきである」との意見が出されたが、「どのような形で改定率を示すか」についても内閣が決定するため、「通常部分」と「消費増税対応部分」が明示されるかどうかも未知数だ。
なお、今後(年明け)は中間整理(p52〜p57参照)をベースに「どの点数にどのように財源を配分するのか」を議論することも予想されるが、中医協全体の議論とも絡んでくるため、厚労省当局は審議スケジュールについても「未定」と述べるにとどめている。