[診療報酬] 入院医療見直しの本格論議スタート、亜急性期は議論難航か

[中央社会保険医療協議会 総会(第254回 11/1)《厚生労働省》]

精神科医療行政ニュース - 2013年 11月 08日

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 厚生労働省は11月1日に、中医協総会を開催した。
 この日は、下部組織である入院医療分科会から最終報告を受け、これに基づいた議論を行った。
 
 
◆入院医療分科会の最終報告を参考に、入院医療見直しの論議本格スタート
 
 入院医療については、非常に幅広い内容の検討が必要なことから下部組織(診療報酬調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会)で集中的な議論が行われてきた。
 今般の最終報告では、次の項目について調査・検討を行い、見直し方向を提言している。詳細については、既にお伝えしているので、そちらをご覧いただきたい。
(1)一般病棟入院基本料(7対1等)の見直し
 『複雑な病態をもつ急性期の患者に対し、高度な医療を提供する』という役割を明確にし、「特定除外制度の見直し(13対1等と同じ仕組みとする)」「看護必要度・重症度基準の見直し」などを行う(p8〜p15参照)(p51〜p88参照)
(2)亜急性期入院医療の見直し
 機能を(i)急性期病床からの受入れ(ii)在宅復帰支援(iii)在宅等患者の緊急時の受入れ―の3つと定義し、これにふさわしい施設基準を設定するとともに、算定対象を療養病棟にも広げる(p16〜p17参照)(p89〜p99参照)
(3)医療提供体制が十分ではないものの、地域において自己完結する医療を提供している医療機関に配慮した評価の検討
 病棟ごとの入院基本料届出等を認める特例措置は十分に活用されていないが、検証を前提に継続する(p18〜p19参照)(p100〜p107参照)
(4)特殊疾患病棟や障害者施設等から療養病棟に転換した場合に対する経過措置
 療養病棟に転換した場合、患者の医療区分を高く評価する経過措置を設けているが、ほとんど活用されていないため廃止する(p20〜p21参照)(p108〜p119参照)
(5)診療報酬点数表の簡素化
 入院料の施設基準に「管理栄養士」配置が義務化されたが、有床診療所の実態とあっていないため、病院とは別の対応(つまり義務化の廃止)を行う(p22〜p23参照)(p120〜p135参照)
(6)医療機関における褥瘡の発生等
 褥瘡発生等の基礎データを収集し、有効な対策へつなげていくことを検討する(p24参照)(p136〜p141参照)
(7)13対1・15対1における特定除外制度見直し
 多くの病院で『出来高算定』を継続(ただし平均在院日数計算に入れる)し、患者は自宅、療養病棟、介護施設等に退棟しており、病床機能分化を進める観点から継続する(p25〜p26参照)(p149〜p155参照)
(8)経過措置7対1
 算定病床は減少傾向にあり、また今後の意向も固めていることから、予定どおり26年3月31日で廃止する(p27参照)(p156〜p160参照)
(9)入院医療の適正化(金曜入院・月曜退院等が著しく多い病院の減算措置)
 24年度改定後、医療機関の動向に大きな変化はないが、措置を継続するとともに、入院医療のさらなる適正化に向けて要件の厳格化も検討する(p28〜p29参照)(p161〜p167参照)
(10)外来機能分化(紹介・逆紹介率の低い大病院の減算措置)
 措置対象病院は発生せず、対象を「許可病床数500床以上の全病院」に拡大するとともに、とくに逆紹介の取組みを推進する(p30〜p31参照)(p168〜p176参照)
 
 
◆7対1等の特定除外、診療側は「一律廃止」に懸念
 
 議論では、診療側と支払側で意見が衝突する場面が目立った。
 さまざまな点で意見の相違があったが、大きくは「(1)と(7)の特定除外」と「(2)の亜急性期」に集約できる。
 
 まず、特定除外制度についておさらいしておこう。
 一般病棟では、入院基本料の逓減制(入院期間が長くなると報酬が下がる)が採用されており、90日を過ぎた入院患者については一部を包括した低い特定入院料を算定することになる。
 しかし、リハビリやがんなどで長期入院がやむを得ないと考えられる患者については、90日より前の入院基本料(出来高)を算定することができる。
 これが特定除外制度である。
 
 この点、13対1・15対1では、90日を超える患者の9割以上が「特定除外患者」であることが明らかとなり、病床の機能分化(一般病棟における長期入院の是正)を進めるために、24年度改定で13対1・15対1の特定除外制度は廃止された。
 
 入院医療分科会では、「7対1・10対1における特定除外制度をどう考えるか」という点について議論を重ね、「13対1・15対1と同様に廃止すべき」という結論に到達している。
 
 この問題について診療側の委員は、独自の調査結果(p177〜p241参照)をもとに「7対1・10対1では、特定除外にがん患者や腎不全患者が多いなど、13対1・15対1とは病態等が異なる」とし、「一律に廃止すべきではない」と主張。
 一方、支払側の矢内委員(全国健康保険協会東京支部長)は「7対1は『急性期医療』を担う病棟であり、特定除外の考え方そのものがそぐわない。厚労省資料を見ても、7対1・10対1では特定除外患者は全体として1割以下であり、残りの患者の平均在院日数が15日以内であれば、施設基準(7対1では平均在院日数18日以内)を満たすことができ(p11参照)(p60〜p63参照)、病院経営等に大きな影響は出ないようだ」と述べ、入院医療分科会の結論を支持している。
 
 
◆「救急患者、高齢者は亜急性期、若人は急性期」は誤解と医療課長が強調
 
 (2)の亜急性期については、大きく次の2点の見直し方向を入院医療分科会が示している。
(i)機能を「急性期病床からの受入れ」「在宅復帰支援」「在宅等患者の緊急時の受入れ」の3つと定義し、これにふさわしい施設基準を設定する
(ii)算定対象を療養病棟にも広げ、病棟単位の届出とする(亜急性期の拡大)
 
 このうち(i)の「在宅等患者の緊急時の受入れ」という機能に、診療側委員はこぞって反対している。
 鈴木委員(日医常任理事)や中川委員(日医副会長)は、「緊急時の受入れとは救急のことであり、これは『急性期』の機能であろう。厚労省の提案では、高齢の救急患者は『亜急性期』で、若人の救急患者は『急性期』で対応する、と読めるが、患者を年齢で差別すべきではない」と強く主張。
 これに対し、厚労省保険局の宇都宮医療課長は「救急搬送患者を急性期と亜急性期の双方で受入れてはどうかと考えている。『高齢の救急患者は亜急性期で、若人の救急患者は急性期で』という議論がなされたことはなく、そうした考えもまったく持っていない」と説明している。
 
 診療側委員のいう『高齢の救急患者は亜急性期で、若人の救急患者は急性期で』という発想は、「在宅等患者の緊急時受入れ」という機能から、「在宅=高齢者」と連想したことによるもののようだ。
 しかし、厚労省保険局医療課の担当者は、「在宅には難病患者、小児患者もいる。高齢者と若人の救急を区別しようなどと考えたこともない」と困惑しながらも、診療側委員の誤解を解く努力をする考えを強調している。
 
 一方、支払側の白川委員(健保連専務理事)は「軽度の救急患者(sub acute)も急性期で診るべきという方向は一定程度理解できるが、患者からすれば『亜急性期なので救急は受けられない』という論理もおかしい。たとえば在宅患者であれば、かかりつけの在支診を支援する連携病院で診てほしいと考えるだろう。バリエーションがあってよいと思う」とコメントしている。
 この点、厚労省医療課の担当者は「在宅患者の急性増悪には、いわゆるsub acuteに該当するケースがあることに疑いはない。ただし、医政局で議論されている『病床機能報告制度』でも『たとえば回復期にはpost acute患者のみが入院し、sub acute患者を診てはいけない』などの整理はされていない」と述べ、今回の亜急性期見直し提言と病床機能報告制度に矛盾のないことを強調している。
 
 なお、この問題に関連して、入院医療分科会の最終報告では、亜急性期の要件の1つとして『2次救急病院の指定』をあげている(p17参照)。この点、厚労省の宇都宮医療課長は「2次救急病院の指定は、あくまで『選択要件』の1つとして例示したにすぎない」と述べ、「2次救急指定を受けなければ亜急性期を算定できない、と考えているわけではない」という点に理解を求めている。
 
 
 (ii)の「亜急性期を療養病棟にも拡大してはどうか」との考え方については、鈴木委員から「療養病棟の中には、看護師を20対1よりも手厚く配置しているところはあるが、医師の配置は一般病棟よりもはるかに少ない。そこで同等の医療を提供できるとは考えられない」と反対している。
 これに対して厚労省の宇都宮医療課長は「在宅医療の議論では、機能強化型の要件を満たさずとも、在宅医療を熱心に行っている一般型の在支診も評価すべきという意見が出されている。その考えを敷衍すると、入院医療でも、7対1並みの救急患者受入れなどを行っている療養病棟(p96〜p98参照)を評価すべきという方向になるのではないか」と説明している。
 
 
◆紹介率等低い大病院の初診料等減額、「精神科病院は除外せよ」との要望も
 
 また、(9)の入院医療の適正化は、「金曜日入院・月曜日退院が極端に多い(連続して6ヵ月以上、4割を超える)場合には、土日曜日の入院基本料を8%減額する」などの仕組みが24年度改定で導入された。
 最終報告書では、「医療機関の動向に大きな変化はないが、措置を継続する」と提言されている。
 
 この点について中川委員は、「この措置は医療機関にとって大変失礼な内容である。しかも調査の結果、医療機関の動向に変化はない、つまりおかしな点はないことが明らかになったにもかかわらず、これを継続するとはどういうことか。いさぎよく誤りを認めて措置を廃止すべきではないか」と強い口調で述べている。
 
 また安達委員(京都府医師会副会長)は、「患者の症状は曜日で決まるわけではない。金曜日入院に抑止がかかると、たとえば金曜日に急変した場合に、診療所からの入院要請を病院が断ることも出てこよう」と述べ、措置内容の見直しを求めている。
 
 一方、白川委員は「現在は『金曜入院・月曜退院が6ヵ月連続して40%以上』という要件で、言葉は悪いが「極めて緩やかな」ものだ。そのために医療機関の動向に変化がないと考えることもできる。少し要件を厳しくしたうえで、継続して検討すべきではないだろうか」との見解を述べている。
 
 
 ところで、(10)の外来機能分化については、上述のように「対象を『許可病床数500床以上の全病院』に拡大してはどうか」との提案がなされている。
 この点、長瀬委員(日精協会長)は、「精神科病院においては、逆紹介率を高めることは難しい。対象から精神科病院を除外してほしい」と要望している。
 
 精神科医療については入院期間の長期化が問題となっており、厚労省の検討会で「精神科入院患者の地域移行」に向けた議論が進められている。しかし、地域移行に向けた手法を模索している段階であり、「大病院から、地域の医療機関に精神科患者を紹介することに関する数値目標(逆紹介率)を設定し、目標を達成できない場合には診療報酬を減額する」という措置の導入は、時期尚早といえよう。
 
 なお、鈴木委員や安達委員は「大病院が3ヵ月などの長期処方するため、逆紹介を行っても『患者が診療所に戻ってこない』ケースもある」と述べ、長期処方の是非について議論するよう要望している。
 この点、厚労省の宇都宮医療課長は「長期処方と多剤投与について、一度議論していただきたい」との考えを明らかにしている。
 
 
 入院医療については、分科会の最終報告を参考意見として中医協総会で本格的な議論が緒に就いた段階だ。
 26年度改定で最終報告の提言がどこまで実現されるのか、今後の中医協総会の議論の展開が注目される。
 この点、鈴木委員は「性急な見直しは医療現場を混乱させてしまう。2025年までの道筋をしっかりと示し、改定ごとに医療機関の経営状況を確認するなど、慎重に進めるべきである」と述べ、支払側や厚労省当局を牽制している。
 
 
◆周術期の口腔管理、重要性は認識するも情報不足が明らかに
 
 このほか、平成24年度改定(前回改定)の結果検証結果の一部も報告されている。
 24年度改定の結果検証は、(1)効果がすぐ現れる項目(救急医療と後方病床の連携推進など、24年度に調査)(2)効果発現までに時間のかかる項目(病院勤務医の負担軽減など、25年度に調査)―の2本立てで行われており、(1)の24年度調査分については、先ごろ(10月9日)、結果検証部会から総会に対して本報告が行われている。
 
 一方、(2)の25年度調査については、速報が五月雨式に提出されている段階だ。
 今回は「周術期歯科」の速報が報告された(p242〜p332参照)。
 手術の前後(周術期)に口腔衛生の管理を十分を行うことが、手術の成功率や予後に深く関係してくることが明らかになり、24年度改定では【周術期口腔機能管理計画策定料】【周術期口腔機能管理料(I)(II)(III)】が新設されるなどの見直しが行われた。
 
 結果検証調査結果からは、次のような状況が明らかになっている。
●周術期口腔機能管理については、歯学部附属病院などでは実質率が高い(87.5%)が、医科歯科併設病院では6割強、歯科診療所では3割強にとどまっている(p256参照)
●周術期口腔機能管理によって、「周術期に必要な口腔機能管理を計画的に行える」「患者が口腔機能管理の重要性を認識する」「術後の感染予防に寄与」などの効果が現れている(p272〜p277参照)
●周術期口腔機能管理を実施しない理由には、「周術期口腔機能管理の内容を知らない」「連携歯科医師の受入れ体制が確保できない」「どの歯科医療機関が周術期口腔機能管理を行えるかの情報がない」などがあげられている(p297〜p298参照)

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