[改定速報] 費用対効果評価、既存薬等を例として具体的検討へ
[中央社会保険医療協議会 費用対効果評価専門部会(第14回 11/6)《厚生労働省》]
平成26年度 診療報酬改定 完全速報 - 2013年 11月 06日
厚生労働省は11月6日に、中医協の「費用対効果評価専門部会」を開催した。
この日は、議論の中間的な整理等を行ったほか、今後の検討項目・スケジュールについて確認した。
◆費用対効果評価について、中間整理を専門部会として了承
費用対効果評価は、「将来、医療費が今以上に高騰した際には、新規の医薬品・機器・技術をすべて保険収載することは難しくなるだろう。その際には、保険収載する際のメルクマールとして『新規技術の費用対効果』などを勘案することになるのではないか」という森田中医協会長(学習院大法学部教授)の言葉を発端として議論されてきた。
前回会合(9月4日)では、厚労省当局から「議論の中間的な整理」案が示された。今回は、その際に委員から出された意見を踏まえた修正版が提示された(p4〜p14参照)。
費用対効果評価に関する考え方のポイントをおさらいすると、次のとおりだ(p5〜p13参照)。
(1)対象技術に関しては、(i)希少疾病は対象としない(ii)代替性のある他の医療技術が存在する(iii)代替する医療技術と比較して、有用性の観点から財政影響が大きい可能性がある(iv)安全性・有効性等が一定程度確立している―ことを原則とする
(2)費用対効果評価の大きな枠組みは、(i)分析(assessment、投下費用と得られる効果についてデータを用いて分析する)(ii)評価(appraisal、幅広い社会的側面等も考慮し、(2-i)で得られた結果を解釈する)(iii)意思決定(decision)―の3段階で検討する
(3)効果指標の取扱いについては、英国で用いられているQALY(質調整生存年)や、生存率、治癒率、重症度などさまざまなものがあるが、それぞれにメリット・デメリットがあり、各指標を用いる際の運用方法や、組み合わせのあり方などを今後検討する
この点、効果指標で捉えきれない医療技術の側面(たとえば精神的満足度の向上など)については、評価(appraisal)において勘案することを検討する
(4)新技術の費用対効果の比較対象については、「幅広く臨床現場で使用されており、新技術が導入されたときに、もっとも置換わりうると想定されるもの」を原則として今後検討する
(5)費用対効果評価の活用方法に関しては、現行制度や患者アクセスの確保などに留意しつつ(たとえば、有用な新規抗がん剤の保険適用を妨げないなど)、「保険償還の可否(保険収載するか否か)」や「保険償還価格の決定」について、具体例を用いることを考慮しながら引続き検討する
修正版では、(3)に関連し「諸外国では費用対効果評価における分析(assessment)方法等についてガイドラインを定め、標準化を図っていることが多く、我が国でも標準的手法を定めるべき」との意見があった旨が追記されている(p7参照)。
また、(5)の結果活用に関連し「増分費用効果比(ICER)を用いた分析を行うことについて一定の合意があった」ことを確認したうえで、次のような意見があったことを紹介している(p13参照)。
●QALY等を用いた増分費用効果比の解釈のあり方や目安、技術的なあり方などについて、さらなる検討が必要である
●検討にあたっては、ドイツで検討されている「効率性フロンティア」法も参考にしてはどうか
この修正版は専門部会として了承され、後に中医協総会に報告された。
◆具体例を用いて検討を進め、年内に検討結果を中医協総会に報告
またこの日は、今後の検討項目・スケジュールについても確認している。
厚労省当局が検討項目として掲げたのは、次の5点(p15〜p16参照)。
(1)評価手法、具体的な評価の活用手法
「議論の中間的な整理」においては、具体的な評価の活用手法について「我が国に当てはめた具体例を用いることも考慮しながら、今後検討する」こととされており、『評価手法や具体的な評価の活用手法』について必要な検討を行う。
(2)評価の実施体制等のあり方
諸外国においては、独自の公的な評価組織を設けていることが多く(企業がデータを提出し、評価組織ではappraisalに係る調整事務等を行う方式が多い)、我が国でも『透明性、公平性、利益相反の管理の徹底等のため、データの分析・提出等のあり方や評価を実施する組織のあり方』等について検討を行う。
また、医療保険制度における費用対効果評価を実施する組織のあり方等を含めた必要な検討も行う。
(3)ガイドライン等
費用、効果の分析(assessment)の透明性、再現性、科学的妥当性等を向上させるための標準的な手法やガイドライン等の整備の必要性・内容等について、必要に応じて検討を行う。
(4)評価(appraisal)のあり方等
費用、効果だけからは明らかにならない点の評価(appraisal)プロセスが非常に重要であるが、そこで不整合が起こらないよう、『実施する際の基準・方法』等についての一定の考え方を、必要に応じて検討する。
(5)その他
我が国の医療保険制度における医療技術の費用対効果評価の導入のあり方の検討を行う際には、現在の各医療技術の算定や保険導入の方法等との整合性について一定の考え方をまとめておく必要があるため、検討を行う。
また、現在検討している分析手法については、いずれも増分費用効果比(ICER:incremental cost-effectiveness ratio)を用いるものであることから、増分費用効果比を解釈する際の考え方について、必要に応じて検討を行う。
この点、支払側の白川委員(健保連専務理事)や花井十伍委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)らは「たとえば(2)の議論をしているだけで時間がなくなってしまう。まず具体的な事例をあげて、それをもとに『こういう課題がある』などと議論していくほうがよいのではないか」と指摘している。
一方、診療側の鈴木委員(日医常任理事)は「具体例を元に議論するにしても、『来年度に施行』などを念頭においた拙速な議論はすべきでない。試行すべきか否かも含めて今後検討すべき」と慎重姿勢を崩していない。
これに対し厚労省医療課の佐々木企画官は、「既存の医薬品や医療材料の中でデータ収集可能なものをピックアップし、試行的に『議論の素材』として提案したい」とコメントしている。
ところで、費用対効果評価を行うために、本来は「評価を念頭においたデータ」が必要だが、我が国には存在しない。製薬メーカーは新薬の保険収載にあたって「自主的に」費用対効果データを提出することが可能だが、十分ではない。
この点について白川委員は、「具体的な検討を進めるためにはデータの整備が必須となる。どういうデータが必要なのか、そのためにどういう準備が必要なのかなどを検討しておく必要がある。検討項目に加えてほしい」と要望している。
なお、今後のスケジュールとして厚労省当局は、今後、「我が国に当てはめた場合の具体例を用いた検討(検討方法の詳細等を含む)」「今後検討が必要な項目等についての議論」を進め、「年内を目途に、中医協総会へ検討結果を報告する」としている(p16参照)。