[診療報酬] 在宅患者紹介ビジネス、療担規則等見直しで紹介料提供等禁止へ
[中央社会保険医療協議会 総会(第253回 10/30)《厚生労働省》]
精神科医療行政ニュース - 2013年 11月 01日
厚生労働省は10月30日に、中医協総会を開催した。
今回もメインテーマは在宅医療。
在宅医療については、前回(10月23日)会合で厚労省当局から次の7項目について論点等が示されたが、審議時間が足らず(4)以降は今回会合に持越しとなっていた。
(1)機能強化型在宅療養支援診療所・病院の要件(p21〜p42参照)
(2)訪問看護(p43〜p76参照)
(3)在宅医療における注射薬や衛生材料等の提供(p77〜p110参照)
(4)在宅医療における薬剤師の役割(p111〜p128参照)
(5)在宅歯科医療(p129〜p146参照)
(6)在宅医療における患者紹介等の事例(p147〜p191参照)
(7)在宅医療を専門に行う保険医療機関(p192〜p194参照)
◆在宅でのチーム医療における薬剤師の役割を評価する提案
(4)の「在宅医療における薬剤師の役割」に関して厚労省は、次のような論点を示している(p111〜p128参照)。
(i)保険医療機関において、処方せんの交付にあわせて患者に保険薬局の地図を配る際に、在宅患者訪問薬剤管理指導を行う保険薬局の情報を提供すること等については、「特定の保険薬局への誘導の禁止」(p120参照)に反しないことを明らかにする
(ii)24時間の対応(夜間・休日でも対応できる体制)について、地域の薬局との連携を図りつつ単独の薬局による対応を原則としてはどうか
(iii)医師(病院・診療所)以外に、訪問看護師(訪問看護ステーション)やケアマネジャーへの情報提供についても規定する
これらは「在宅医療における薬剤師の機能・役割をより高めていこう」「多職種が連携して在宅医療を推進してもらおう」という考え方(p117参照)にもとづく提案だが、委員からは慎重な意見が相次いだ。
たとえば(ii)の24時間対応については、支払側の石山委員(日本経団連医療改革部会部会長代理)から「24時間対応の要望は患者からあるのだろうか?一般用薬の話と混同してはいないか」との疑問が出された。
これについて診療側の安達委員(京都府医師会副会長)は、「薬局の24時間対応を望んでいるのは緊急往診を行う開業医であろう。患者のニーズは保険外の話だと思う」とコメント。
しかし、三浦委員(日薬副会長)は「たしかに数多くの在宅を実践している薬局であっても、21時以降に実際に対応することは年に数回あるかないかと少ない。しかし、24時間対応できる体制を構築しておくことは重要である。是非、評価してほしい」と反論している。
◆在宅歯科推進に向けて、歯科診療サイドは在支歯診の要件緩和を要望
(5)の「在宅歯科医療」に関して、厚労省が示した論点は以下のようになっている(p129〜p146参照)。
(i)在宅歯科訪問診療を推進するために、在宅療養支援歯科診療所をどう評価していくか
(ii)介護施設等で複数の患者に行われる歯科訪問診療を適切に提供するために、【歯科訪問診療料2】の評価などをどう考えるか
(iii)歯科訪問診療の診療時間が20分未満であった場合に、基本診療料を算定する取扱いをどう考えるか
(iv)歯科訪問診療が必要な患者が、適切に診療を受けられるよう、医科医療機関等と歯科医療機関との連携をどう促すか
このうち(i)の在支歯診の推進に関して堀委員(日歯常務理事)は、「在支歯診の要件(p135参照)がやや厳しすぎる。たとえば歯科衛生士の配置が地域によっては難しいところもある。柔軟な対応を認めてほしい」と要請。
また(iii)の「歯科訪問診療における20分要件」は、「【歯科訪問診療料】を算定するには、診療時間が20分以上でなければならない。20分未満の場合には基本診療料(再診料など)を算定する」という規定だ(p132参照)。
この規定について堀委員は、「診療行為を時間で縛るのは好ましくない」として見直しを求めている。
◆在宅医療での患者紹介ビジネス、医療機関と業者の双方向からの是正を
(6)の「在宅医療における患者紹介等の事例」は、昨今、マスコミをにぎわせているテーマだ。
これは、「多数の寝たきり高齢者等を施設等に収容し、提携する医療機関に患者として紹介し、施設側が、医療機関が得る訪問診療料等から『紹介料』などとしてキックバックを受ける」という事例だ。
厚労省当局は「患者のフリーアクセス(どこの医療機関から訪問診療を受けたいかなどの自由)を奪うなどしなければ、即座に違法ということはできない」(p158参照)と苦しい胸のうちを説明している。
この点について厚労省は、次のような対応をとって是正してはどうかと提案している(p147〜p191参照)。
(i)【在宅時医学総合管理料】【特定施設入居時等医学総合管理料】について、訪問診療料と同様に、同一建物かどうかに応じた評価体系とする(p166〜p174参照)
(ii)【在宅患者訪問診療料】について、過剰診療等を防ぐために、患者等への説明と同意を含め、診療内容の記載などを求め、診療内容による整理を行う(p183〜p184参照)
(iii)療養担当規則の改正等により、保険医療機関が、患者の紹介を行う者に対して、患者の紹介を受ける対償として、紹介料等の経済上の利益を提供することを禁止する
この論点に対しては、真っ向から反対する委員はいなかったが、診療側の万代委員(日病常任理事)や堀委員からは、「診療報酬での対応(i)よりも、療養担当規則での対応(iii)が妥当ではないか」との指摘が出された。まじめに在宅医療を実施している医療機関に不利益を与えるべきではないとの考え方に基づく意見といえよう。
また(ii)の診療内容の記載については、支払側委員の多くが「当然のこと」と主張したが、診療側委員からは「医療機関サイドの負担を考慮すべきではないか」と慎重な意見が出されている。
ところでこの問題については、支払・診療両側の委員から「患者紹介を行う業者サイドも取締るべきではないのか」との考え方も示されている。
安達委員は、「医師の倫理観が問われているのは事実だ。ただし、患者を紹介する業者には、歩ける患者に対しても『歩かないで、お医者さんに来てもらうほうが楽でしょう』などといって訪問診療を誘導している悪質なケースもあると聞く。診療側は療養担当規則で、業者側は別途の法律で縛り、こうした事態を双方向から是正していく必要があろう」とコメントしている。
なお、この点に関連し支払側の白川委員(健保連専務理事)は、「一部では患者紹介料が3割とも聞くが、逆に考えれば『3割を支払っても医療機関を経営していける』ということだ。訪問診療料などが高すぎるとも考えられるのではないか」との問題提起を行っている。
◆在宅専門医療機関、支払側は「ニーズある」と肯定するも、診療側は慎重姿勢
(7)の「在宅医療を専門に行う保険医療機関」は、健康保険法の解釈から原則として認められていない。
しかし、在宅医療を積極的に展開していこうと考える医療機関からは、「在宅一本に絞り、外来を可能な限り縮小(できれば廃止)できないか」との要請も強いという。
この点について厚労省当局は、次の2段構えで検討していく方針を打出している(p192〜p194参照)。
(i)在宅専門医療機関を認めるべきか否かを検討する
(ii)在宅専門医療機関が認められないとして、外来応需体制(たとえば、「在宅医療を行うことの被保険者への周知」「急変時に患者から相談を受ける連絡先の確保」「患者が外来受診できる連携医療機関の確保」「訪問診療を行う地域範囲の限定」など)を検討する
この問題については、意見が分かれた。
診療側の鈴木委員(日医常任理事)や安達委員は、「在宅専門への患者ニーズは理解できるが、できるだけ『かかりつけ医』として外来医療も実施していただきたい。地域のかかりつけ医として外来医療に従事することで、患者の家族関係や既往歴を知り、そうした中で在宅医療にとって重要な部分が見えてくるのではないか」と主張。
また中川委員(日医副会長)は、「一般用医薬品のネット販売では『実店舗の稼動』を要件とする方向で議論が進んでいる。在宅医療でも、店舗ではないが『実際に外来診療を行っている医療施設』が必要であろう。そこに患者の安心感が生まれる」とし、在宅専門医療機関には慎重であるべきとの見解を述べている。
一方、支払側の白川委員や、公益代表の関原委員(日本対がん協会常務理事)は、「かかりつけ医による在宅医療がもっとも好ましいが、現状では、そうした医師は少数にとどまっている。一方で在宅医療へのニーズは拡大しており、かかりつけ医を補う形で在宅専門の医療機関が出てきているのだろう。現時点では固定的に考えず、地域の実情にあった在宅医療の形を探ってもよいのではないか」と述べ、在宅専門医療機関を容認する考え方を示している。
在宅医療については、本日の議論を踏まえて厚労省当局がさらなる論点の絞込みなどを行う考えだ。
◆26年度改定までは現状体制で論議、26年度改定以降は基本小委を活用
この日は、診療報酬基本問題小委員会の今後のあり方についても議論になった。
基本小委は主に診療報酬本体について議論する場であり、かつては「基本小委で実質的な議論を行い、総会は形式的な最終決定を行う場」という位置づけであった。
しかし、基本小委と総会の委員構成がほとんど同じ状況になっているため、現在は、総会で実質的な議論を行っている(p9参照)(p13参照)。
この状況について一部委員からは、「診療報酬の基本的な問題を議論する場として、基本小委を定期的に開催すべきである」との強い要請がある。
そこで今般、厚労省当局は次のような提案を行っている(p10〜p11参照)(p14〜p15参照)。
●26年度改定に向けた論議においては、現状どおり「総会で実質的な審議」を行う
●26年度改定後は、基本小委の委員を「支払側5名、診療側5名、公益代表6名、専門委員1名」に絞り、診療報酬本体の原案を基本小委で議論したうえで、総会で議論する
●基本小委で扱う中長期的な課題について、各分科会の役割を整理したうえで検討する
この提案に対して、一部委員からは「総会の意味がなくなってしまわないか」「総会と異なる少人数構成とすれば幅広い意見が出てこなくなってしまわないか」などの指摘があったものの、最終的に了承されている。