[薬価] 新薬創出等加算額と研究開発費用総額を比較して、今後の検討指標に

[中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第92回 10/16)《厚生労働省》]

平成26年度 診療報酬改定 完全速報 - 2013年 10月 16日

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 厚生労働省は10月16日に、中医協の薬価専門部会を開催した。
 この日は、新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出等加算)について議論を行った。
 新薬創出等加算については、(1)新薬や適応外薬解消の状況報告を踏まえた論議(2)加算がドラッグラグ解消等に結びついているかどうかの指標設定に向けた論議―の2点が行われた。
 
 
◆新薬創出等加算総額は年間689億円、新薬等の開発は247件に
 
 まず、新薬創出等加算について簡単におさらいすると、次の要件を満たす先発品について、「薬価改定においても、一定程度、改定前薬価を維持する(改定前薬価の80%を維持する)」という仕組みである(p5〜p9参照)。
●新薬として薬価収載された既収載品で、後発品が薬価収載されていない(薬価収載後15年まで)
●市場実勢価格と薬価との乖離率が、全薬価収載品の乖離率の加重平均値を超えない
 
 平成22年度の薬価改正においてドラッグラグの解消等が大きな課題として浮上し、「先発品の薬価を一定程度維持することで先発品メーカーの体力を維持し、新薬等の開発を推進してもらう」ために導入された。
 
 この点、(1)の新薬等の開発状況をみると、加算総額は年間689億3000万円(361成分、695品目が加算の対象)となった一方で、加算を算定しているメーカーの新薬等開発状況は「247件の開発要請が行われ、15件について公募への申請が行われた」という結果が示されている(p10〜p11参照)。
 個別メーカーの状況をみると、「加算を多く受けながら、新薬等開発がなされていない」メーカーもあれば、「加算額が少ないものの、新薬開発等を積極的に行っている」メーカーもある。
 
 この状況については委員から多くの指摘がなされている。
 白川委員(健保連専務理事)や安達委員(京都府医師会副会長)は「開発要請がゼロ件のメーカーが30程度(28社)ある。もっとも分かりやすい仕組みは『要請を受けて開発した新薬等に加算を設定する』というものであろう。開発要請がなくとも、加算を取得している状況はいかがなものか」との問題提起を行った。
 これに対し、土屋専門委員(エーザイ株式会社代表執行役専務)は「メーカーによって得意分野等もあり、開発要請された医薬品がメーカーの開発方向に合わないケースもある。しかし、長い目で見れば平準化していく」と説明している。
 また加茂谷専門委員(塩野義製薬株式会社常務執行役員)は、「業界では『開発支援センター』を自ら設置し、実際に開発しているメーカーへの資金援助やノウハウ提供などの支援を行っている。業界全体を対象として開発状況を評価してほしい」とコメントしている。
 
 なお、資料の中には、「外国企業とライセンス取得交渉中であり、開発要請に応じているか否かなどは、まだ公表しないでほしい」というメーカー側の事情は含まれていない。したがって、各メーカー個別の数値等は、実態とはわずかだが乖離があるようだ。
 
 
 一方、新薬創出等加算の対象品目がない(つまり加算が受けられない)メーカーでも、新薬等開発に積極的なところもある(p11参照)。
 この点についても加茂谷委員は「敬意を表したい。ただし、業界独自の『開発支援センター』からの支援は行っており、業界全体で新薬等開発に取組んでいる状況を認識してほしい」と要望している。
 
 
 なお、厚労省保険局医療課の近澤薬剤管理官は、「PMDA(医薬品医療機器総合機構)の調べによると、申請ラグ(米国と日本との薬事承認申請までの期間の差)は、平成21年には2.5年であったが、24年には1.5年に短縮している。また、承認ラグ(米国と日本との薬事承認までの期間の差)は、21年には3.3年あったが、24年には1.6年に短縮している」と説明し、新薬創出等加算がドラッグラグ解消等に向けて一定の効果を果たしていることを強調している。
 
 
◆新薬創出等加算総額と研究開発費用総額とを対比して、今後の検討指標に
 
 ところで新薬創出等加算は、現時点では「試行」導入されているにすぎない。「新薬創出等の効果があると実証されてから、恒久導入(永続的な導入)をすべき」という中医協委員の指摘を重視したものだ。
 しかし、現在のところ加算の効果を評価する指標がないために、中医協における議論でも「新薬開発等の効果がある」とする意見と「効果の見極めには時期尚早である」との意見がかみ合わず、議論が空転してしまっている。
 そこで24年度改定時には、「ドラッグラグ等の解消に結びついているか」を評価する指標を検討するよう宿題が出されていた(p30参照)。
 
 この点、厚労省はこの日、(1)真に医療の質の向上に貢献する医薬品の国内開発に向けた費用(研究開発費)(2)適応外薬等の解消のための費用(研究開発費)―の合計を指標の1つとして、これと「加算総額」(上記の689億3000万円など)とを比較してはどうか、との提案を行った(p31〜p36参照)。
 もちろん、指標はこれだけではなく、「他の指標として必要なものがないか」を引続き検討することになる(p36参照)。
 
 この提案に対しては、安達委員から批判が出されている。
 安達委員の批判は、(i)全メーカーの開発費総額と加算額全体を比較したのでは、個別メーカーの開発状況が分からない(ii)費用の基準があいまいすぎる―という2点に集約できる。
 (i)については、「全体として開発が進んでいれば、まったく開発にタッチしていないメーカーも加算の優遇を受けることになる。護送船団方式である」と指摘。
 これに対し近澤薬剤管理官は、「今回の提案はあくまで指標の1つにすぎない。たとえば『真に必要な医薬品』の個別データをとり、個々のメーカーの状況を把握できると考えている」と説明した。
 
 また石山委員(日本経団連医療改革部会部会長代理)は、「厚労省の提案によると、加算額が研究開発費用額を上回るような場合には、加算額のカットを行うのか」と質問。
 これに対し近澤薬剤管理官は「まずデータを集める必要がある。現在は、何ら指標がない。データを集めてから、指標をどう活用していくのか議論したい」と説明するにとどめている。
 
 この点、将来的には、たとえば「加算額と研究開発費用額とのバランスに応じて、新薬創出等加算の下支え率(現在は80%)を変動させる」というルールの導入も考えられよう。注目すべき指標である。

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